研究課題/領域番号 |
18K19484
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
吉田 清嗣 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (70345312)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 細胞分裂 |
研究実績の概要 |
幹細胞性が可塑的に変化するがん幹細胞において、非対称分裂により様々な性質のがん細胞を生みだすことによって増大していると考えられており、この分裂様式の理解が研究目的である。 がん幹細胞はがん細胞の中で幹細胞様の性質をもつ細胞集団として知られており、自己複製能、高い治療抵抗性をもつ。これら幹細胞様の性質は、浸潤や転移、再発などの原因となると考えられている。がん幹細胞は腫瘍内に極少数の割合で存在していると考えられているが、がん幹細胞に制御に関わる因子や細胞内シグナル伝達経路については不明な点が多い。Pim-1はがん遺伝子と知られるリン酸化酵素であり、様々な基質のリン酸化を介して細胞増殖、生存、アポトーシスを制御することが報告されている。また、Pim-1の高発現が多くのがん種で報告されているが、がん幹細胞での機能については不明である。本研究ではPim-1キナーゼのがん幹細胞内での機能に注目し大腸癌細胞株を用いた解析を行った。過去の報告から、in vitroにおけるsphere formation assay は自己複製能を有するがん幹細胞を選別する方法であることが明らかとなっていることから、sphere形成細胞でのPim-1の機能について解析を行った。その結果、Pim-1はsphere細胞で高発現していることを見出した。また、Pim-1の機能抑制はsphere形成を抑制した。Pim阻害剤を用いた解析から、Pim-1はsphere細胞においてAkt、mTORの活性を制御することが明らかとなった。これらの結果から、Pim-1はAkt/mTORシグナル伝達経路の活性化を介してがん幹細胞の自己複製能の制御に寄与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がん幹細胞の分裂様式を調べるにあたって、その恒常性維持に寄与する分子の同定と機能解析は必須であり、その一つとしてPim-1キナーゼを見いだすことができたことは、大きな前進であると判断する。一方で、非対称分裂を解析する実験系の確立には至っておらず、今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
非対称分裂を解析する実験系を確立することが第一義である。またがん幹細胞の分離は技術的には十分に可能なレベルに達しているものの、その精度を上げることには引き続き取り組んでゆく必要がある。非対称分裂の分子機構解明は研究の方向性として堅持していくものの、その技術的なハードルも徐々に明らかになってきており、その壁を乗り越えることが困難であると判断せざるを得ない局面に至った際には、がん幹細胞の特性により焦点を当てた研究へと方針を転換することも念頭に置く必要があると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はがん幹細胞の特性に重点をおいた研究が中心となったため、イメージング実験は予備的データの取得に留まっており、計上していたイメージング関連の予算は来年度に執行することを予定している。
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