本研究では、糖代謝機構を制御し、相同組換え(homologous recombination: HR)修復不全を利用して合成致死に導くという、新しい治療戦略概念の確立を目指す。そのため、「柱1.糖代謝阻害によるHR修復不全誘導を基盤とした治療法のPOC取得」と「柱2.HR修復不全誘導を制御する分子機序の解析」の二つの柱をたて、相互に連携を図りつつ、研究を推進する。当該最終年度においては、昨年度までの2年間の成果に基づき、研究を継続実施した。具体的には、柱1の研究においては、昨年度までに見出した、解糖系阻害剤2-デオキシグルコース(2DG)と同様にシスプラチンとの合成致死誘導作用を有するグルタミン代謝阻害剤について、遺伝子発現変動や細胞内の代謝変動に着目して2DGとの比較解析を進めた。遺伝子発現変動解析から、両薬剤に共通して、細胞内ストレス応答の活性化が認められることが明らかになった。さらに、細胞生物的解析から、このストレス応答シグナルは、HR修復不全様の表現型誘導に関与することが示唆された。また、代謝変動解析から、グルタミン代謝阻害剤と同様に2DGもグルタミン代謝に影響することが明らかになった。こうした解析に加え、グルタミン代謝阻害剤とシスプラチンとの併用効果について、ゼノグラフトモデルを用いた検討を進めた。一方、柱2の研究においては、ヒトがん細胞パネルJFCR39の中で、2DGとシスプラチンとの合成致死効果について、高感受性を示した細胞株と抵抗性を示した細胞株を抽出し、昨年度までに行った構成的な遺伝子発現解析に引き続き、2DG処理時の遺伝子発現解析を進めた。そして、両群において発現変化の異なるものとして、mRNAプロセシングや細胞周期制御に関わる遺伝子群、さらには、放射線治療やシスプラチン感受性への関与が報告されているlncRNA等を見出した。
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