前年度までに樹立したG4リガンドPhen-DC3耐性ヒト膵がん細胞を親株細胞と比較解析した結果、前者で過剰発現し、Phen-DC3耐性をもたらす因子としてABCトランスポーターファミリーの一員であるABCG2/BCRPを同定した。ABCG2阻害剤のfumitremorgin C(FTC)は同細胞のPhen-DC3耐性を部分的に克服したが、Phen-DC3のGI50値(細胞増殖を50%阻害するのに必要な濃度)は親株細胞と同等レベルにまでは低下しなかった。一方、同耐性細胞は別系統のG4リガンドであるテロメスタチン誘導体にも交差耐性を示したが、この耐性はFTCでは克服されなかった。実際、蛍光ラベルしたテロメスタチン誘導体の細胞内イメージング解析を行ったところ、親株細胞と耐性細胞とでテロメスタチン誘導体の細胞内への取り込みは同等であった。これらのことから、ABCG2はPhen-DC3の耐性因子として働くが、さらに別の因子がG4リガンド耐性に寄与していると考えられた。GeneChipマイクロアレイ解析で得た変動遺伝子群のオントロジー解析を行ったところ、親株細胞に対するPhen-DC3の短期処理では核酸代謝に関する遺伝子群の発現が、同剤の長期処理によって樹立されたG4リガンド耐性細胞株では組織発生や分化に関わる遺伝子群の発現が、それぞれ変動していることが見出された。これらの知見を踏まえてさらに、G4リガンド感受性がもともと低いタイプのがん細胞株において、siRNAによってノックダウンするとG4リガンド感受性が増強する候補遺伝子Xを同定した。同遺伝子は、G4の安定化によって露呈するがん細胞の脆弱性を規定する因子である可能性が示唆された。
|