研究課題/領域番号 |
18K19495
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
那波 宏之 新潟大学, 脳研究所, 教授 (50183083)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
キーワード | 幻聴 / 錯聴 / 統合失調症 / 脳波 / モデル動物 / サイトカイン |
研究実績の概要 |
「幻聴」とは、言語聴覚認知システムの一部が崩壊し、誤作動や過活動していると考えられているものの、その神経科学的な脳内プロセスは多くの謎に包まれている。本研究ではヒトで幻聴誘発能力のある上皮成長因子受容体抗体や有力な統合失調症モデル動物を用いて、モデル動物の一次聴覚野と前頭葉の神経活動とその同期性・連合性を解析することにより、「幻聴」や「錯聴」の脳内プロセスの再現を試みるとともに、そのメカニズムのヒントを得ることを目標とする。一連の実験を通して以下の疑問;無音で当該試薬投与だけで、一次聴覚野の活動が誘発できるか?、誘発できた場合、その時空間パターンからどんな音を聞いていると推定されるか?、前頭皮質や口腔運動皮質への神経活動伝播はどのような時空間パターンを呈するか?などの答えに迫りたい。本年度は、これらの疑問に対し、以下の研究成果を得た。 ①EGF投与で作成した統合失調症モデルラットの一次聴覚野では、統合失調症患者でみられるような神経活動マーカーFOSやEGR1発現亢進があり、一次聴覚野の過活動が確認された。②統合失調症モデルラットは、一次聴覚野から前頭葉への神経投射に異常がある。③統合失調症モデルラットでは恒常的に一次聴覚野と前頭葉脳波の同期性が高く、音刺激誘発成分がかき消されているが、抗精神病薬の投与は事象関連の同期性を著しく改善した。④急性の脳室内EGF投与でも、EGR1発現誘導され、一次聴覚野の過活動が確認された。⑤実験計画にある遺伝子改変マウスを凍結受精卵より起こして、現在、繁殖させている
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の統合失調症モデル動物でも、患者と同様の聴覚皮質過活動が確認されており、当初の仮説がサポートされている。具体的にその神経過活動の脳機能における意味付けが、耳鳴りと幻聴を区別するカギとなると考えられるため、さらなる解析手法の改良が必要である。EGFR抗体の投与実験については、実験計画にある遺伝子改変マウスを凍結受精卵より起こして、実験計画に必要な数まで繁殖させているため、時間がかかっていて、本年度は動物繁殖に終わった。
|
今後の研究の推進方策 |
統合失調症や幻聴幻覚のヒト生理学研究において、最近、脳波やMRIを使って大脳皮質間の機能的・生理的な結合性や同期性のデータが蓄積されつつある。今後、本動物実験の多点ECOGデータが収集された暁には、ヒト脳波連合性との対比、比較をおこない、トランスレーション出来うるか検討する。また当初計画では、幻聴に関連する統合失調症モデルとして上皮成長因子EGFシグナルに着目しているが、必要性に応じて、他の動物モデルも取得すると良いかもしれない。
|
次年度使用額が生じた理由 |
現在、計画にある遺伝子改変マウスを用いた実験を行うために、その繁殖を行っていて、それに時間を要している。繰り越し予算は、当該実験計画に要するその飼育費と関連する物品費に主に充てられる。
|