研究課題/領域番号 |
18K19496
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山下 貴之 名古屋大学, 環境医学研究所, 准教授 (40466321)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 光遺伝学 / 報酬 / ドーパミン / 洞毛 / 学習 |
研究実績の概要 |
嬉しそうな顔や悲しそうな顔などといったように、感情が顔に表れることはヒトではよく知られている。しかしながら、動物の表情による感情表現については体系的な研究がほとんどなされておらず、表情を生み出す神経回路機構やその進化については全く理解が進んでいない。私たちは、聴覚Go/No-Go課題を遂行中のマウスを観察する中で、報酬予測・報酬獲得・報酬省略のそれぞれのタイミングにおいて、マウスの頬にある洞毛(whisker)が特徴的な動きを示すことを発見した。本課題の学習過程において、報酬に関連する洞毛運動がどのように変化するかを調べたところ、(1)報酬予期に関連した洞毛の前側への動き(protraction)が課題学習の進行とともに表出すること、および、(2)報酬獲得に関連した洞毛のprotractionやリズミカルな動き(whisking)は学習進行によって変化しないことが明らかとなった。また、これら報酬関連の洞毛運動のみを入力データとし、マウスが報酬を予測したか否か、報酬を獲得したか否か、といった行動パラメータを正確に予測するコンピュータ・アルゴリズムを開発した。さらには、報酬予測・獲得に伴い発火上昇する中脳ドーパミン神経を光遺伝学的に刺激すると、洞毛運動が誘発できることも見出した。これらのことから、洞毛運動はマウスの内的状態を表現する表情の一部であり、中脳ドーパミン神経は報酬に関連した洞毛運動の少なくとも一部を駆動すると結論された(投稿準備中)。今後は報酬関連の顔面運動における中脳ドーパミン神経とその下流の神経群の役割を調べていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は先行研究が皆無であり非常に挑戦的な内容であったため難航が予想されたものの、実験条件の最適化により大きなトラブルなく着実に課題学習中の洞毛運動データを収集することができ、当初の目標であった行動予測アルゴリズム開発を早期に完了することができた。また、条件検討に多くの時間を費やすと予想されたドーパミン神経の光刺激による洞毛運動の誘発についても早期に終了することができて、スムーズに論文作成へと移行した。また、これまで得たデータにより新たな仮説が生まれて、新たな研究が芽生えはじめていることから、本研究は当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
現時点までに得られている報酬予測・獲得・省略時のマウスの洞毛運動および洞毛運動におけるドーパミン神経の役割について、早期に論文発表することを当面の目標とする。それと並行して、ドーパミン神経特異的にCre組換え酵素を発現する遺伝子組換えマウス(DAT-Creマウス)にCre依存的にオプシンを発現するアデノ随伴ウイルスベクターを局所注入することにより、ドーパミン神経特異的にオプシンを発現させたマウスを作成する。そのマウスのターゲット脳部位に光ファイバーカニューレを留置してドーパミン神経やその下流の神経群を光遺伝学的に活性化あるいは不活性化し、その結果表出する洞毛運動の変化を詳しく検証することにより、報酬に関連する洞毛運動を司る神経群を同定する。課題学習により表出する報酬予測に伴う洞毛運動がどの神経経路に依存するかについては、神経経路特異的な活動抑制が有効であると考えられる。また、最新の動画解析アルゴリズムを利用して、顔面全体の動画を撮影してドーパミン神経活動操作が誘発する特徴的な運動を抽出するとともに、そのような運動が課題遂行中のマウスや病態モデルマウスにおいても見られるか否かを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
連携研究者(NAIST 吉本潤一郎博士)との研究打ち合わせの多くをweb会議としたことにより旅費を削減したこと、および、ドーパミン神経光刺激実験の条件検討が当初の計画よりも短期に終了し論文作成に移ったことから、消耗品類として計上していた実験用品のうち光ファイバー類などへの支出が当初の予定に比べて減額されたことにより次年度使用額が生じた。次年度使用計画としては、論文投稿準備のため停止中である光刺激実験を再開するためのファイバー・カニューレ類などの消耗品やマウス管理維持費(その他)として用いる。
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