研究課題
嬉しそうな顔や悲しそうな顔などといったように、感情が顔に表れることはヒトではよく知られている。しかしながら、動物の表情による感情表現については体系的な研究がほとんどなされておらず、表情を生み出す神経回路機構やその進化については全く理解が進んでいない。私たちは、聴覚Go/No-Go課題を遂行中のマウスを観察する中で、報酬予測・報酬獲得・報酬省略のそれぞれのタイミングにおいて、マウスの頬にある洞毛(whisker)が特徴的な動きを示すことを発見した。本課題の学習過程において、報酬に関連する洞毛運動がどのように変化するかを調べたところ、(1)報酬予期に関連した洞毛の前側への動き(protraction)が課題学習の進行とともに表出すること、(2)報酬獲得に関連した洞毛のprotractionは学習進行によって変化しないこと、(3)報酬獲得後の洞毛の前後運動(whisking)は学習進行により穏やかになってくること、(4)報酬省略によって起きるwhiskingは報酬獲得後のそれよりも激しいことが明らかとなった。また、これら報酬関連の洞毛運動のみを入力データとし、マウスが報酬を予測したか否か、報酬を獲得したか否か、といった行動パラメータを正確に予測するコンピュータ・アルゴリズムを開発した。また、ドーパミン神経の光遺伝学的刺激を報酬とした場合、リッキングを伴わないことから純粋に報酬関連の顔運動すなわち表情のみを観察できることを見出し、報酬予測・報酬獲得時に特徴的な洞毛及び鼻の運動を発見した。さらに、行動薬理実験および電気生理実験により、これらの報酬関連の表情を司る神経回路を調べたところ、側坐核D1R発現細胞を介する経路とそれを介さない経路の2つの経路が重要であること、かつ、両者の経路ともに大脳皮質一次運動野顔領域の活動を必要とすることが明らかになった。
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bioRxiv
巻: 798702 ページ: 1-31
10.1101/798702
The Journal of Neuroscience
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10.1523/JNEUROSCI.2946-19.2020