本研究では、経験依存的な脳機能変化における細胞レベルの神経基盤をより詳細に明らかにするため、経験の前と後など複数の時間枠において活動した神経細胞を、時間枠ごとに異なる色の蛍光蛋白質で標識可能なマウスを構築しつつ、全脳イメージング技術FAST (block-face serial microscopy tomography)の装置改良、画像処理および解析法の構築を目指している。 本年度は、構築したマウスのイメージング解析および装置構成の改良に取り組んだ。内因性c-Fosの下流に蛍光タンパク質Venus、薬物誘導型Cre組換え酵素、テトラサイクリン制御性トランス活性化因子rtTAをノックインしたマウスにおいて、CreまたはrtTA依存的な蛍光タンパク質を発現するアデノ随伴ウイルスベクターを用いて、細胞標識効率を評価した結果、タモキシフェンおよびドキシサイクリン投与により蛍光標識された細胞を確認できた。しかし、Venusの蛍光については、一部の脳領域において発現細胞様の蛍光が認められたものの、現在のFASTの構成ではほとんど検出限界以下であった。その対策として、FASTの励起光出力の向上などを検証しつつ、並行してVenusにより標識する予定であった神経活動変化を、内因性c-Fosの免疫染色法により可視化するための組織ブロック染色条件の確立に取り組んだ。その結果、国内外を含む複数の文献において報告されている界面活性剤を用いた水溶性溶媒ベースの透過処理方法を利用することで、可視光域の組織自家蛍光にほとんど影響を与えず、目的分子を蛍光染色可能であることが確認できた。 当初の予定から部分的に修正を要したものの、複数時間枠における神経活動変化をc-Fos発現を指標として捉える新たな解析に繋がり得る方法を確立できたと考えられる。
|