脳は解剖的・機能的に様々な領域に区分されており、それぞれの脳領域同士がどのようにコミュニケーションして高次脳機能を発揮するのか?を明らかにすることは脳神経科学の最重要課題のひとつである。各領域は多くの場合、複数の領域からの投射入力を受けるが、あらゆる状況において全ての入力回路が同等に働く訳ではない。しかし、この“活動状態選択的”な機能的神経回路を効率的に明らかにすることのできる適切な手法は未だ開発されていない。そこで本研究では、任意の行動刺激に応じて活動した特定の領域内の一部の活動細胞に投射する神経回路・細胞集団の網羅的探索および光活動操作を行うことが可能なマウスの遺伝学的システムの開発を行い、手始めに記憶学習・想起回路解明への適用を行うことを目的としている。 今年度は、昨年度までに構築した神経活動依存性プロモーター、Cre/loxPおよびFlp/frt組み替えDNAシステム、テトラサイクリン発現誘導システム、逆行性輸送システムなどを組み合わせた遺伝学システムの文脈依存的恐怖条件付け学習課題への適用を試みた。そのために、作製したアデノ随伴ウイルスベクターの混合溶液 を、C57Bl/6Jマウスの背側海馬歯状回に局所注入を行い、各マウスに文脈依存的恐怖条件付け課題を施した。その後、脳切片を作製し、免疫組織化学染色法による発現の解析を蛍光顕微鏡を用いることにより行った。その結果、背側海馬に投射していることが従来から知られている複数の脳領域の一部の細胞においてGFPシグナルを検出することができた。このことから、本研究によって開発したマウス遺伝学的システムが働いていることが示された。新たな機能的神経回路の同定に役立つことが期待される。
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