研究課題
当研究室ではコステロ症候群で最も頻度の高いG12S変異を発現するノックインマウスを世界で初めて作製に成功し、解析を行ってきた。コステロ症候群患者は特異的顔貌、心疾患、成長障害・低身長、低血糖などを示す。HRAS変異マウスも類似した頭部骨格の変化、心肥大、腎疾患を認めた。通常の餌では体重増加は正常と同等であるが、高脂肪食投与では太りにくく、短命という表現型を持つ。高脂肪食投与後HRAS変異マウスの肝臓の観察では、β酸化異常を疑わせる小滴性脂肪肝となっており、血中アシルカルニチン分析においてβ酸化異常を疑わせる長鎖アシルカルニチンの蓄積が認められた。本研究では絶食を行いβ酸化誘導時の血中・尿中ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)、血中遊離脂肪酸、血中アミノ酸、肝臓内への脂質蓄積などβ酸化関連因子を測定したところ、絶食24時間時点で尿中ケトン体の低下が見られ、48時間では血中ケトン体の低下もまた認められた。HRAS変異マウスはコントロールマウスと比べて血中遊離脂肪酸、メチオニン、フェニルアラニンが上昇していた。さらに肝臓への脂質蓄積は絶食によってコントロールマウス、HRAS変異マウスともに増加していたが、HRAS変異マウスでは特にコレステロールの蓄積が有意に増加していた。また、解糖系亢進によるピルビン酸の上昇がみられた。グルコース負荷試験を行ったところ、変異マウスの方がグルコースの値が低値となり、糖利用の亢進が見られた。また、HRASマウスにて絶食時にERK活性が上昇する現象を観察しており、現在そのメカニズムを検討中である。
2: おおむね順調に進展している
HRAS変異ノックインマウスの作製に成功し、高脂肪食投与により代謝パラメータが変化していることを初めて見出した。本研究はその延長線上にあり、絶食を行いβ酸化誘導時のパラメーターを測定し、高脂肪食投与における肝臓にてβ酸化異常が起こっていることを確認することができた。がん代謝などで報告されている他の経路についても検討を進めている。
これまでは主に絶食時の肝臓にてβ酸化異常が起こっていることに焦点を当てて解析を行ってきたが、今後は他の代謝系も検討できるような網羅的な解析系も検討していく。また絶食時の肝臓におけるシグナル伝達経路分子の変化も興味深いものが観察されてきているため、シグナル伝達分子の変化も解析の対象とする。
試薬類の価格の変更により残額が生じたが、翌年度に使用する予定である。
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J Hum Genet.
巻: in press ページ: in press
1038/s10038-019-0579-3
EBioMedicine.
10.1016/j.ebiom.2019.03.014.
http://www.medgen.med.tohoku.ac.jp/