研究課題/領域番号 |
18K19508
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
川井 恵一 金沢大学, 保健学系, 教授 (30204663)
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研究分担者 |
間賀田 泰寛 浜松医科大学, 光尖端医学教育研究センター, 教授 (20209399)
石田 康 宮崎大学, 医学部, 教授 (20212897)
国嶋 崇隆 金沢大学, 薬学系, 教授 (10214975)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 薬物代謝酵素 / 代謝酵素活性測定 / 核医学画像診断 / 放射性画像診断薬 / 個体差要因 / 薬物療法 / 個別化適正使用 / cytochrome P450 |
研究実績の概要 |
個体差の大きい精神神経疾患に対する薬物療法の治療効果や副作用発現を予測できる画像診断法を確立することは、薬物療法の個別化の汎用的基盤形成に重要である。本研究では、最重要個体差要因であり医薬品の個別化適正使用の根拠となる薬物代謝酵素活性診断法の確立と臨床応用を目的として、非侵襲的な分子イメージング法により、多くの医薬品に共通する薬物代謝酵素活性を個別に定量的に測定し得る核医学画像診断法を確立する。特に、個体差の変動要因として医薬品の個別化適正使用の観点から最も重要な薬物代謝酵素 cytochrome P450(CYP)に注目し、若年層にも急増しているうつ病などの精神神経疾患薬物療法の最適化を緊急課題として、向精神薬に共通した薬効・副作用の個体差要因である CYP2D6 活性測定に適した新規放射性画像診断薬を開発する。 これまでに、脳血流測定剤123I-IMPのヒト組み換えCYPによる代謝物を解析して、IMPの肝臓中の第一反応代謝酵素が CYP2C19であることを特定し、その酵素活性測定法を報告した。 本研究では、神経受容体シンチグラフィに臨床使用されている123I-Iomazenil (123I-IMZ) が、体内で代謝を受けること、および推定代謝経路が既に報告されていることから、新規薬物代謝酵素活性イメージングのモデル診断薬とし、包括的かつリアルタイムな薬物代謝酵素活性の定量解析への有用性を検討した。その結果、123I-IMZは代謝酵素活性イメージング診断薬に求める諸条件を満たすことから、放射性代謝物が排泄される胆のうや膀胱などの臓器をターゲットとした経時的SPECTイメージングを実施し、それらの経時的集積曲線からリアルタイムな薬物代謝酵素の活性を定量解析できる可能性が示された(Nucl. Med. Commun., 39: 825-833, 2018)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、薬物代謝酵素によって代謝される放射性画像診断薬の体内動態解析を利用し、肝臓の薬物代謝酵素活性を測定する新規定量法の開発を目的とした。本年度は神経受容体シンチグラフィ剤123I-Iomazenil (123I-IMZ) が、体内で代謝を受けること、放射性代謝物の生成および推定代謝経路が既に報告されていることから、新規代謝イメージングの候補薬剤とした。 マウス肝ホモジネートを用い、carboxylesterase(CES)の特異的阻害剤であるbis (4-nitrophenyl) phosphate (BNPP)を負荷することで主代謝経路の放射性代謝物の生成阻害が確認された。また、マウスに123I-IMZを投与後の放射性代謝物分析の結果、血漿では123I-IMZは早期に大部分が代謝されており、肝臓においては早期には複数の代謝物が存在し、時間経過に従って未変化体123I-IMZの割合が減少したことが確認された。また胆汁・尿中では放射性代謝物が大部分を占め、未変化体123I-IMZは僅かであった。マウスの体内分布・イメージングでは、早期に脳、肝臓、腎臓に集積し、速やかな排泄が確認できた。投与後60分では、肝臓に比べて胆のう・小腸・膀胱への集積が明瞭であり、集積を比較することが十分可能な画像が得られた。 以上より、123I-IMZは代謝酵素活性イメージング診断薬に求める諸条件を満たすことから、放射性代謝物が排泄される胆のうや膀胱などの臓器をターゲットとした経時的SPECTイメージングから得られる経時的集積曲線を用いてリアルタイムな薬物代謝酵素の活性を定量解析できる可能性が示された(Nucl. Med. Commun., 39: 825-833, 2018)。このように本研究課題で提唱している薬物代謝酵素活性の核医学画像診断の実施例を初年度で示すことができた意義は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
個別化薬物療法の最適化において、薬物代謝酵素活性は薬物体内動態に大きく影響することから、申請者らは、肝臓などの薬物代謝酵素活性に依存した動態を示す分子イメージング法を考案し、蛍光物質の実施例を基に特許を取得した[特許取得:川井、国嶋、小林、他2名; 特許第6124273号, 2017]。これらの原理を利用し、生体試料の採取を要しない非侵襲的分子イメージング法により、生体内組織における薬物代謝酵素活性を個別に測定し得る画像診断薬を開発する。そのためには、多くの治療薬成分の代謝に関与する共通性の高い薬物代謝酵素により代謝され、その結果生じる放射性代謝物が速やかに排泄される特徴的な体内動態を示す必要がある。 前年度に達成した薬物代謝酵素活性の分子イメージング法による定量測定系の確立を継続するとともに、新たに、個体差の変動要因として医薬品の個別化適正使用の観点から最も重要な薬物代謝酵素 cytochrome P450 (CYP)の薬物代謝酵素活性測定を最優先課題として、向精神薬に共通した薬効・副作用の個体差要因である CYP2D6 活性測定に適した新規放射性画像診断薬を開発に着手する。本研究課題で優先課題と位置づけた精神神経疾患の薬物療法に共通するCYP2D6に関しては、数ある基質の中でも代謝酵素活性イメージング診断薬が満たすべき諸条件を期待できるフェノチアジン系抗ヒスタミン薬のメキタジンを標識母体化合物に選択して分子設計を開始した。 本研究課題は、特にこれまでに例のない新規薬物代謝酵素画像診断法の実施例を示すことができたことから、当初の研究計画通りに順調に進展しており、研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での問題点は全くない。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、これまでに例のない分子イメージングによる酵素活性測定法である薬物代謝酵素画像診断法の実施例を示すために、既存の放射性医薬品である神経受容体シンチグラフィ剤123I-Iomazenil (123I-IMZ)をモデル診断薬として評価に用いたことから、標識化合物開発・調整に要する経費が削減できた。平成31年度には、新規CYP活性診断薬の分子設計・標識に着手する。特にCYP2D6診断薬にはPET診断薬を計画していることから、医療用サイクロトロンを有するPETセンターでの実験が必須となり、研究分担者が所属する浜松医科大学での実験を予定しているので、通常の研究経費に加え、その出張経費が必要となる。
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