研究課題
わが国だけで受診患者が約80万人を数える統合失調症の臨床には、2つの大きな課題がある。第一は、統合失調症患者での脳病態は依然不明であり、難治症例が多い点である。第二は、心疾患の合併や治療薬抗精神病薬の心循環系副作用による死亡率の高さである。これら統合失調症をとりまく課題の克服には、統合失調症における脳(精神症状の発生源及び治療標的臓器)と心臓(合併症及び副作用発生臓器)双方の病態理解が不可欠である。そこで本研究の目的は、ヒトiPS細胞を利用して統合失調症患者の脳と心臓の病態を反映するヒトモデル細胞を作製することである。目的を達成するため、本研究の初年度である本年度は、健常者から樹立したiPS細胞を用いての解析条件検討をおこなった。脳モデルとしては、転写因子Neurogenin2の誘導系(Tet-onシステム)によるiPS細胞由来大脳皮質ニューロンを適用した。これまでに、健常者3例のiPS細胞から、成熟ニューロンマーカー(MAP2やNeuN等)やシナプスマーカー(SynapsinI等)を有するニューロンの獲得に成功した。また、本ニューロンにおいて、抗精神病薬(クロザピンおよびチオリダジン)に対する濃度依存的な反応性を明らかにした。今後、統合失調症患者として、特に染色体22q11.2欠失を有する患者から樹立したiPS細胞を用いて同様の検討をおこなう。一方、心臓モデルの作製にあたっては、市販の誘導キットを適用することで、拍動する心筋細胞の獲得に成功した。しかし、市販キットが2018年末に販売中止になり、2019年以降、別メーカーのキットにて研究を進めている状況である。
4: 遅れている
心筋誘導に用いていた市販のキットが予定外に販売中止になった。そのため、短期間ではあるものの、中断を余儀なくされたことから進捗は遅れているとした。
脳モデルの確立については、計画どおり次年度で精神疾患患者iPS細胞を用いた検討を実施予定である。心臓モデルの確立については、旧キットでの予備データを参考に、新しい市販キットを用いてのデータの取り直しをおこなう。解析条件が決定次第、精神疾患患者iPS細胞を用いた検討へ進める予定である。
心筋誘導に使用していた市販のキットが突如販売中止となり、一時的な中断を余儀なくされた。そのため、当初予定した研究内容を次年度に持ち越すこととなり、次年度への使用額が生じた。持ち越した研究費は、新キットの購入および心筋解析へ充てる。
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Cell reports
巻: 24(11) ページ: 2838-2856