研究課題
統合失調症をとりまく臨床課題の克服には、統合失調症における脳(精神症状の発生源及び治療標的臓器)と心臓(合併症及び副作用発生臓器)双方の病態理解が不可欠である。そこで本研究では、ヒトiPS細胞を利用して統合失調症の脳と心臓それぞれの病態を反映するヒトモデル細胞を作製し、病態解明に応用することである。本年度は、患者iPS細胞を用いた解析に着手した。対象患者は染色体22q11.2欠失症候群患者とした。染色体22q11.2欠失は統合失調症の最大発症リスクであると同時に、欠失患者の半数以上が先天性心疾患を併発することから、脳および心臓双方を考慮すべき患者の代表例である。まず、脳モデルとして、転写因子Neurogenin2の誘導系(Tet-onシステム)によるiPS細胞由来大脳皮質ニューロンを適用した。健常者大脳皮質ニューロンに比べ、22q11.2欠失症候群患者大脳皮質ニューロンでは、より低濃度の抗精神病薬においても細胞死が生じることを明らかにした。次に、心臓モデルとしてはiPS細胞から誘導分化させた心筋細胞を適用した。心筋細胞への分化には、市販の分化誘導キットを用いた。大脳皮質ニューロンで認められたように、健常者心筋細胞に比べ、22q11.2欠失症候群患者心筋細胞ではより低濃度の抗精神病薬においても細胞死が生じた。染色体22q11.2欠失症候群患者に対し、抗精神病薬の適用に注意が必要であることを示唆する結果である。一方、心臓モデルの作製で使用していた市販キットがメーカーの製造中止に伴い入手不可となり、年度途中から別メーカーのキットへの変更を余儀なくされた。
4: 遅れている
心筋誘導に用いていた市販のキットが予定外に製造中止になった。別メーカーのキットでの誘導法確立に時間を要したため、進捗は遅れているとした。
補助期間を1年延長し、22q11.2欠失症候群患者iPS細胞から誘導した大脳皮質ニューロンおよび心筋細胞の抗精神病薬に対する反応性の詳細な解析をおこなう。また、オミクス解析を取り入れ、分子病態解明を進める。
心筋誘導に使用していた市販のキットが2018年末に突如メーカー製造中止となり、使用キットの変更を余儀なくされた。2019年度では新しいキットを用いた検証をおこなっていたが、誘導法確立に時間を要した。そのため、当初予定した研究内容を次年度に持ち越すこととなり、補助期間の延長を申請するとともに、次年度での使用額が生じた。持ち越した研究費は、新キットの購入および心筋解析へ充てる。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Psychiatry and Clinical Neurosciences
巻: - ページ: -
10.1111/pcn.12993
Neuropsychopharmacology
巻: 44 ページ: 2125~2135
10.1038/s41386-019-0441-5
Translational Psychiatry
巻: 9 ページ: -
10.1038/s41398-019-0461-2