研究実績の概要 |
本研究の目的は、統合失調症の臨床課題である、「脳病態が不明で難治症例が多い点」及び「心疾患の合併や抗精神病薬の心循環器系副作用による死亡率の高さ」を解決するため、統合失調症の脳と心臓の病態を反映するヒト疾患モデル細胞を作製することである。 対象は22q11.2欠失症候群患者とし、本患者由来iPS細胞を用いて疾患モデルの作製を行った。22q11.2欠失は精神疾患発症の強いリスクであるとともに、高率に先天性心疾患を併発するため22q11.2欠失症候群患者は抗精神病薬の効果と心循環器系副作用の両課題を抱えた代表例である。 脳病態を反映するモデルとして転写因子Neurogenin2の誘導系によるiPS細胞由来大脳皮質ニューロン及びドパミン神経細胞を、心臓病態を反映するモデルとして市販の心筋分化誘導系によるiPS細胞由来心筋細胞を適用した。健常者と比較し、22q11.2欠失症候群患者大脳皮質ニューロンでは、より低濃度の抗精神病薬で細胞死が生じることを明らかにした。また、22q11.2欠失症候群患者ドパミン神経細胞では、キナーゼタンパク質PERKの発現量低下及び下流シグナル異常が起きていることを見出した(Arioka Y and Ozaki N et al., EBioMedicine, 2021)。PERKは小胞体ストレスセンサーの一つであり、本結果は22q11.2欠失症候群患者における脳病態の一因として神経細胞の小胞体ストレスに対する脆弱性の関与を強く示唆するものである。心筋細胞を用いた解析では、微小平面電極アレイを用いた電気生理解析法を確立し、hERGチャネル阻害剤による濃度依存的な反応性を確認した。しかし、心臓モデル作製に用いていた市販キットの製造中止により令和元年度から2年度前半にかけてやむなく研究を中断したため、抗精神病薬に対する反応性解析は行えておらず今後更なる検討を要する。
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