小核移行トリガー蛋白質の特定は、二次元電気泳動法による分離に難航したため、CRISPR/Cas9を用いて標的染色体を特異的に切断またはdCas9を結合することで、小核へ移行し後天的トリソミックレスキューを誘導する方略に変更した。核型修正効率をFISH法にて評価したところ、切断箇所が増えるほどdisomy細胞の出現率が上昇した。6箇所の切断では標準偏差がやや大きいものの最大7.1%の核型修正効果が認められ、更に13箇所の切断では、disomy細胞が約13%出現した。dCas9はDNA切断活性が不活性化されているCas9変異体で、gRNAと共に特定の塩基配列に比較的長時間(3時間以上)強く結合するとされる。DNA複製障害あるいは細胞分裂時の染色体不分離を来たし小核移行を誘導する可能性を期待したが、disomy細胞はほとんど認められなかった。 以上の結果から、2箇所のDNA二本鎖切断では修復機構によりDNA修復が起こっていると考えられた。一方、13箇所切断で最もdisomy細胞が多く出現し、後天的トリソミックレスキューが誘導されたと考えられるが、今後更に多くの組合せで再現性を確認する必要がある。より多くの箇所で二本鎖切断された標的染色体は、DNA修復しきれず小核へ移行・分解される頻度が増し、結果として後天的トリソミックレスキューが誘導出来たと推察される。現在これらの誘導disomy細胞に対し、STR解析やMLPA法などの詳細な解析を実施中である。さらに、小核へ移行したM2染色体を可視化して画像上確認し、M2染色体が消去された一連の過程を科学的に今後追求する。総じて今後は、切断箇所の数の追加による効率化、切断箇所の組み合わせ最適化、エクソソームを用いた標的細胞特異的な核型修正、最終的にはDNA二本鎖の切断を用いない方法で高効率に核型修正が可能な方法の構築に邁進する予定である。
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