前頭側頭葉変性症(FTLD)は前頭葉と側頭葉を病変の主座とし行動障害や言語障害を呈する神経変性疾患である。本邦の指定難病に選定されているが、病態は解明の途上にある。また疾患特異的なバイオマーカーや疾患修飾薬は存在しない。臨床表現型の全く異なる筋萎縮性側索硬化症は、神経病理学的に約半数のFTLDと共通性を有する。2011年にこの全く臨床表現型の異なる2つの疾患の共通の遺伝的原因の1つとしてC9orf72遺伝子の非翻訳領域における異常に伸長したGGGGCCリピー ト変異が同定された。この6塩基リピートはRAN翻訳(Repeat Associated non-ATG translation)と呼ばれる開始コドン非依存性の翻訳によって5種類の DPR(Dipeptide-repeat proteins)と呼ばれるジペプチドの繰り返しモチーフをもつタンパクへと翻訳される。DPRはC9orf72リピート延長変異FTLD/ALS(以下C9- FTLD/ALS)患者の脳内に蓄積する。DPRの毒性は細胞やショウジョウバエモデル、マウスモデルなどで既に立証されている。RAN翻訳は細胞ストレス時に増加する ことが最近報告されたが、その詳細なメカニズムは未だ明らかでない。RAN翻訳を選択的に抑制することができれば、新しい観点からの治療法になりうる。本研究では、RAN翻訳の調節因子として有望な因子を同定し、様々な角度から当該因子のRAN翻訳調節因子としての妥当性、蓋然性の検証を進めたが、現時点ではRAN翻訳の修飾因子として矛盾のない結果を得ており、現在研究成果をまとめて英文論文の投稿準備中である。
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