研究実績の概要 |
近年のシークエンシング技術の進歩に伴い、段階的な遺伝子変異の蓄積が癌化の引き金となることが実証された。また、数理モデルによる疫学データ解析から、各臓器の癌化リスクは組織幹細胞の細胞分裂歴と強く相関することが示され、幹細胞から癌化に至るプロセスは内在性因子と環境因子の影響を受けることが示唆された。しかしながら、生物学的癌化プロセスにおける内在性・外因性因子の相対的寄与や時間的関係性については明らかとなっていない。免疫・造血システムは骨髄内で非常にゆっくりと分裂する造血幹細胞により維持されている。白血病化の大きな要因として、この造血幹細胞への遺伝的変異の蓄積、それに伴うクローナル造血への進展および拡大がある(Steensma, Blood 2015)。近年、白血病関連の遺伝子変異を持つものの、白血病化する前の造血幹細胞、いわゆる“前白血病幹細胞”の存在が示されたため、本研究では炎症が前白血病幹細胞の出現や進展に与える影響について検討した。少ない細胞でのクローン追跡を検討するため、DNAバーコードを組み込んだ細胞株を準備してシークエンスによりクローンの同定を試み、1ー10万個の細胞数で500クローンを同定できる解析技術とインフォマティクスパイプラインを確立してきた。本年度は、DNAバーコードを組み込み、造血幹細胞のクローン追跡を可能にするマウスの作製を行っている。一つは、スリーピングビューティー依存的にDNAバーコードがゲノム上にランダムに挿入されるマウスですでに作成できた(DNAバーコードマウス)。もう一つは、Cre発現依存的にスリーピングビューティーがオンになるマウスで目的コンストラクトを持つESを樹立した。スリーピングビューティーマウス作成を一度試みたが、キメラマウスが生まれなかっため、今後も引き続きトライする。
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