研究課題
近年の疫学研究により糖尿病患者がアルツハイマー病を合併しやすいことが報告されている。しかしながら、なぜ合併しやすいかについては不明のところが多い。本研究は、糖尿病を引き起こす脂肪細胞障害とアルツハイマー病の早期神経変性の共通メカニズムとして『可溶性アポEレセプターを放出するプロテアーゼ制御の破綻』が存在するという仮説をたて、アルツハイマー病患者の脳組織切片と髄液検体を提供する米国ワシントン大学セントルイス校神経科と糖尿病基礎研究を行うケンブリッジ大学メタボリックリサーチセンターと共同で、米国アルツハイマー病研究拠点(ADRC)バンクより送付されたヒトアルツハイマー病匿名化脳組織切片と髄液の検体解析と細胞基礎解析を行い、新規バイオマーカー可溶性アポEレセプターLR11から視た糖尿病とアルツハイマー病の発症に共通する細胞機能の病的障害メカニズムを提示することを目的とした。これまでに、LR11細胞外領域抗体によるヒトアルツハイマー病脳組織切片の免疫染色に加えて、市販化されている細胞外領域を抗原とする抗体、細胞内領域を抗原とした抗体の最適な染色条件を確定し、今年度より脳組織切片の染色とその解析に着手し、染色強度の客観的評価を行ない、LR11分断後断片の細胞内分布を比較した。さらに、糖尿病発症におけるLR11分断の意義を明らかにするために、不死化初代培養細胞を樹立するために、マウス脂肪組織から前駆細胞を調整し、複数の脂肪組織由来前駆細胞クローンを獲得し、安定して継代された不死化細胞株を樹立した。令和4年度、これらの不死化培養細胞の遺伝子発現の包括的プロファイルを検討する。これらの結果を合わせて糖尿病病態とアルツハイマー病の病態指標との関連を明らかにする。
4: 遅れている
ヒトアルツハイマー病脳組織切片のLR11免疫染色は、複数の異なったLR11細胞外領域を認識する抗体に加えて、細胞内領域を認識する抗体を用いた免疫染色も加え、これらの染色強度を比較することで、脳組織切片のLR11断片の発現に関わる定量比較解析を終了し、患者髄液検体の可溶性LR11測定も終了し解析中である。一方、糖尿病病態とアルツハイマー病病態におけるLR11分断という共有する病的意義を解析するためのマウス不死化培養細胞の複数のクローンを脂肪組織由来前駆細胞より樹立することに成功した。これらのクローンの基礎的細胞機能の解析は終了したが、細胞増殖速度の充分でないクローンが存在し予定している遺伝子発現の包括的プロファイル解析には至っていない。以上より、当初、予定していた主要計画である脳組織切片の免疫染色条件検討と初代細胞株の確立を終了することができたが、予定していた細胞内の遺伝子発現の包括的プロファイルには至らず、研究計画に比べてやや遅れていると考える。
ヒトアルツハイマー病脳組織切片のLR11免疫染色は、当初予定していたLR11細胞外領域抗体A2-2-3抗体によるヒトアルツハイマー病脳組織切片の免疫染色に、市販化されている細胞外領域を抗原とする抗体Ab1190684、細胞内領域を抗原とした抗体C-term16642を加えて、全ての切片の検討を終了し、米国アルツハイマー病研究拠点(ADRC)バンクより送付されたヒトアルツハイマー病脳組織切片の免疫染色強度の定量的評価を終えた。現在、髄液中可溶性LR11の測定結果と合わせて、アルツハイマー病における細胞障害と髄液可溶性LR11の関連を解析し、そのバイオマーカーとしての意義を米国ワシントン大学研究者と共に検討している。マウス白色脂肪から均一化し獲得した不死化前駆脂肪細胞株の細胞数を調整し、遺伝子発現の包括的解析を行う。
COVID-19感染拡大により、それに関わる業務が増え、加えて、緊急事態宣言に伴う研究室使用の制限により、研究に携わる時間が取れなかったため。本来、今年度予定していた研究計画の中で来年度にずれ込んでしまった、染色切片の定量評価と不死化細胞株の遺伝子発現解析に今年度使用しなかった研究費を使用する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Circulation Journal
巻: 86 ページ: 977-983
10.1253/circj.CJ-20-1271