本研究は、糖尿病を引き起こす脂肪細胞障害とアルツハイマー病の早期神経変性の共通メカニズムとして『可溶性アポEレセプターを放出するプロテアーゼ制御の破綻』という仮説をたて、米国ワシントン大学セントルイス校神経科と共同で、米国アルツハイマー病研究拠点(ADRC)バンクより送付されたヒトアルツハイマー病匿名化脳組織切片と髄液の検体解析を行い、可溶性アポEレセプターLR11から視た糖尿病とアルツハイマー病の発症に共通する病的障害メカニズムを提示することを目的とした。アルツハイマー病で特徴的な脳内アミロイドプラークの形成はアミロイドβペプチド( Aβ)産生に代謝分解が伴わないことが一因となる。GWAS研究によりアルツハイマー病リスクとしてアポEゲノタイプとLR11遺伝子多型が同定された。LR11は細胞内でアミロイド前駆体タンパク(APP)と結合しAβの代謝を促進する一方、LR11はアポEと結合するレセプターでもあり、その結合はAPPと競合する。これまでに研究代表者は、研究協力者R. Perrin博士より供与されたヒトアルツハイマー病の脳組織切片と髄液検体を用いてアルツハイマー病の病期、アポEゲノタイプとCSF可溶性LR11濃度の関連を解析してきた。令和5年度は、これまでの研究期間に行ったLR11の異なった領域を認識する抗体による染色結果を総合的に解析し、その結果を考察した。神経細胞におけるLR11発現はアポEゲノタイプE4の患者細胞で低下し、アルツハイマー病発症早期より増大していた。その程度はLR11細胞膜外領域とC末端領域をそれぞれ認識する抗体による染色結果の間で異なっていた。以上より、可溶性アポEレセプターLR11は、脂肪細胞トランスディファレンシエーション過程のみならず、プロテアーゼ作用障害によるレセプタープロセシング異常がアルツハイマー病の病態基盤にも関わることが示唆された。
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