研究課題/領域番号 |
18K19531
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
乃村 俊史 北海道大学, 大学病院, 講師 (50399911)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | アトピー性皮膚炎 / フィラグリン / mRNA decay |
研究実績の概要 |
皮膚の最外層に位置する角層は皮膚バリア機能の要である。角層の破綻は種々の抗原の皮膚内部への侵入を許し、経皮感作とアレルギー疾患発症を引き起こす。事実、角層形成に必須のタンパク質であるフィラグリンが遺伝子変異により先天的に減少すると(人口の約10%にみられる)、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を発症しやすい。フィラグリン遺伝子(FLG)がコードするプロフィラグリンはフィラグリンの前駆タンパク質で、フィラグリンが10-12個直列にリンカーペプチドを介して並んだ構造をしている。プロフィラグリン自体は生理活性を示さないが、そのリンカー部分で切断されて産生されるフィラグリンは角層の形成や保湿など多彩な生理機能を発揮する。通常、ナンセンス変異やフレームシフト変異により早期終止コドン(premature termination codon; PTC)ができると、変異mRNAはnonsense-mediated mRNA decay(NMD)という機構で分解されるため、PTCを持つ変異mRNAからタンパク質は産生されない。しかし例外的に、PTCをきたす変異が遺伝子の最後のエキソンに存在すると、ほとんどの場合NMDを回避することが知られている。興味深いことに、FLG変異はすべて最後のエキソンに存在するため、理論上は変異フィラグリンmRNAが患者皮膚に豊富に存在し、中途半端なプロフィラグリンが多量に産生されるはずである。それにもかかわらず、本研究では、変異を持つアトピー患者皮膚ではプロフィラグリンやフィラグリンの発現が減少していることを確認しており、患者におけるフィラグリンの減少は変異フィラグリンmRNAの分解が原因である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
FLGにPTCを持つ表皮角化細胞株を、mRNA decayに重要な因子のsiRNAでノックダウンし、変異フィラグリンmRNAを定量し、仮説を検証する予定であるが、表皮角化細胞株へのsiRNAのトランスフェクション効率が極めて低いために、mRNA分解機構の特定に至っていない。今後、トランスフェクションの方法と種類を最適化し、結果を得たい。
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今後の研究の推進方策 |
今後、フィラグリン mRNAの分解機構を特定し、mRNA分解機構の観点からアレルギー性皮膚疾患の発症基盤の解明を目指すとともに治療法・予防法の開発を目指す。具体的には、mRNA decayに関わる因子のsiRNA(または阻害剤)が変異フィラグリンmRNAの増加を介して実際にフィラグリンを増加させ皮膚バリア機能を改善させることを確認するために、FLGにPTCを持つ患者由来細胞から3次元培養皮膚を作製する。この3次元培養皮膚を同siRNA(または阻害剤)で処理し、(1)変異フィラグリンmRNAの増加、(2)フィラグリンモノマーの増加、(3)皮膚バリア機能の改善(角層の超微構造の改善、経皮的水分喪失量の改善)の3点について検討する。さらに、flaky tailマウス(フィラグリン遺伝子にフレームシフト変異を持ちPTCを生じる)を用いて同様の評価を行い、好感作物質塗布によるアトピー性皮膚炎発症の抑制効果についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画と異なり、人件費を要しなかった一方、消耗品(実験試薬)の購入に予定よりも多くの費用を要したが、結果的に予定使用額を20356円下回った。次年度も消耗品購入に当初の想定よりも費用を多く要する予定であり、今回生じた次年度使用額をそれに充てる予定である。
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