皮膚の最外層に位置する角層は皮膚バリア機能の要である。角層の破綻は種々の抗原の皮膚内部への侵入を許し、経皮感作とアレルギー疾患発症を引き起こす。事実、角層形成に必須のタンパク質であるフィラグリンが遺伝子変異により先天的に減少すると(人口の約10%にみられる)、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を発症しやすい。フィラグリン遺伝子(FLG)がコードするプロフィラグリンはフィラグリンの前駆タンパク質で、フィラグリンが10-12個直列にリンカーペプチドを介して並んだ構造をしている。プロフィラグリン自体は生理活性を示さないが、そのリンカー部分で切断されて産生されるフィラグリンは角層の形成や保湿など多彩な生理機能を発揮する。通常、ナンセンス変異やフレームシフト変異により早期終止コドン(premature termination codon; PTC)ができると、変異mRNAはnonsense-mediated mRNA decay(NMD)という機構で分解されるため、PTCを持つ変異mRNAからタンパク質は産生されない。しかし例外的に、PTCをきたす変異が遺伝子の最後のエキソンに存在すると、ほとんどの場合NMDを回避することが知られている。興味深いことに、FLG変異はすべて最後のエキソンに存在するため、理論上は変異フィラグリンmRNAが患者皮膚に豊富に存在し、中途半端なプロフィラグリンが多量に産生されるはずである。しかし、本研究において、(1)変異を持つアトピー患者皮膚ではプロフィラグリンやフィラグリンの発現が減少していること、(2)siRNAでDicer1をノックダウンしNMDが起こっている可能性を示した。患者におけるフィラグリンの減少は変異フィラグリンmRNAの分解が原因である可能性が示唆された。
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