研究課題
皮膚筋炎は皮膚および筋を中心に炎症を来す自己免疫疾患であり、病因解明と新規治療法の開発が望まれている特定疾患である。皮膚筋炎の中でも、自己抗原であるmelanoma differentiation associated gene 5(MDA5)に対する自己抗体を有する患者は、その半数に致死的な急速進行性間質性肺炎を来たす。抗MDA5抗体の抗体価は、急速進行性間質性肺炎の病勢と相関することが示唆されており、MDA5に対する免疫反応は病態に重要であることが想定される。現在、抗MDA5抗体価を指標に免疫抑制療法をはじめとする集学的治療が試みられているが、副作用により患者の生活の質は大きく障害されている。さらに、重症の場合は効果を示さないことがあり、予後は悪い。このため、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎における病因解明と新規治療法の開発は、喫緊の課題である。しかしながら、これまで抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の研究は十分に行われていない。なぜなら皮膚筋炎において、その亜型と捉えられる本疾患は患者数がごく少数に限られており、検討に足る、まとまった症例数が得られないからである。また、前述の通り抗MDA5抗体が病勢と相関することが知られているにも関わらず、抗MDA5抗体の病原性についても不明な点が多い。その最たるものは、MDA5は細胞質内蛋白であり、通常抗体は細胞内には侵入しないため、抗MDA5抗体がどの蛋白をターゲットとして病原性を発揮しているかは、全くのブラックボックスである。そこで、本研究では本疾患のモデル動物を開発することを目的とし、これを解析することで病因と病態の解明を行う。さらに、我々が産業技術総合研究所(五島直樹チーム長)と共同で開発した、自己抗原アレイで解析を行い、抗MDA5抗体がターゲットとするMDA5以外の細胞外に発現する蛋白の同定に迫る。以て新規治療法開発へ繋げる。
1: 当初の計画以上に進展している
皮膚筋炎は皮膚および筋を中心に炎症を来す自己免疫疾患であり、未だに有効な治療法がなく、病因解明と新規治療法の開発が望まれている特定疾患(いわゆる難病)である。多くの研究があるにも関わらず、その病因は明らかではないが、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬が一定の効果を示すことから、免疫が大きく関わっていることに疑いはない。皮膚筋炎の中でも、自己抗原であるmelanoma differentiation associated gene 5(MDA5)に対する自己抗体を有する患者は、その半数に致死的な急速進行性間質性肺炎を来たす。このため、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎における病因解明と、これに基づく新規治療法の開発は、皮膚筋炎に関する課題の中でも喫緊である。しかしながら、これまで抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の研究は十分に行われていない。なぜなら、オーファン疾患である皮膚筋炎において、その亜型と捉えられる本疾患は患者数がごく少数に限られており、検討に足るまとまった症例数が得られないからである。そこで、本研究では抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎モデル動物を世界ではじめて樹立することを目的とし、これを解析することで病因と病態の解明を行う(図1)。さらに、産業技術総合研究所(五島直樹チーム長)と共同で独自に開発した、自己抗原アレイによる解析を用いて、抗MDA5抗体の新規ターゲット蛋白を見出す。これにより、新規治療ターゲットの同定にも挑戦する。今年度予定されていた研究は、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎モデルマウスの作成と、その解析である。申請者らは、既に抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎モデルマウスの開発を終えており、現在は、その解析に進んでいる。さらに加えて、当初は来年度に予定していた野生型マウスに対するリンパ球の養子移入実験まで進められており、「当初の計画以上に進展している。」と判断した。
今年度も昨年度に引き続き、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎モデルマウスの作成を行い、種々の解析を継続する。作成された抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎モデルマウスから皮膚および肺を採取し、病理組織学的に検討を行い、加えて血清中サイトカイン産生を検討する。また、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎モデルマウスから得られたリンパ球を野生型マウスに養子移入することで、皮膚筋炎が誘導されるか否かを検討する。この際、MDA5は自己抗原であるため、トレランスが誘導されていることが予測され、野生型C57BL/6マウスではMDA5に対する免疫応答を惹起出来ない可能性がある。このため、MDA5で免疫したMDA5欠損マウスより得られた脾臓細胞を野生型C57BL/6マウスへ養子移入し、病態が出現するかを検討する。さらに脾臓細胞をT細胞、B細胞の分画に分けて養子移入することにより、病態形成に重要な細胞を同定する。同時に、各細胞集団から産生されるサイトカインの検討も行う。これらの細胞集団からはRNAの抽出も行い、RNA-sequenceを用いた、網羅的遺伝子発現解析も行う予定である。これらに加えて、今年度は抗MDA5抗体のターゲット蛋白に関する探索を行う。これによって抗MDA5抗体の細胞外ターゲット蛋白が見出された場合には、このタンパク質を用いて野生型マウスに対して免疫反応を惹起し、病態の出現を検討する。具体的には、野生型マウスに対して免疫後、経時的に肺、皮膚を採取し、組織学的に炎症の程度、リンパ球浸潤の度合い、mRNA解析による発現サイトカインの解析を行う。さらには、リンパ球を抽出し、サブセット毎にも発現タンパク量をmRNAレベルのみならず、タンパクレベルによっても明らかとする。これにより、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の発症メカニズムと、病勢に関わる因子の同定、さらには新規治療ターゲットの同定に繋げる。
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