研究課題
これまでの研究成果から、我々は生活習慣病の主な症状である肥満、耐糖能異常、塩分感受性高血圧治療のメインターゲットになりうる分子としてWNK4に着目している。WNK4活性を制御することができれば、生活習慣病のあらゆる症状に対するマルチターゲット治療が実現する可能性があるという意味で、本研究の意義は大きいと考えられる。しかしながら、WNK4の基質は血圧制御や塩出納に関わるものと、脂肪細胞において脂質代謝制御因子の調節に関わるものはそれぞれ異なる事が推察され、本研究では脂肪細胞におけるWNK4の制御標的(基質)を同定することを第一の目標として掲げた。まずは脂肪細胞に分化誘導できる3T3-L1培養細胞に対してCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いてWNK4ノックアウト(KO)株を作成し、内在性WNK4の影響を排除した条件下にWNK4のフラグメント別強制発現を行い、脂肪細胞分化制御因子の発現に影響を与える特定のドメインを選定し、相互作用する分子探索の手がかりにすることを目指した。当初の研究計画通り、CRISPR/Cas9技術を応用し、まずWNK4の完全KOが確認された3T3-L1クローンを6ライン得る事に成功した。続いてWNK4のフラグメント別強制発現実験では全長ないしC末端フラグメントでPPARγの発現誘導が起こり、従来の想定通りWNK4脂肪細胞代謝活性はキナーゼ非依存的なメカニズムが想起された。並行して質量分析によるWNK4相互作用分子の同定準備のため、架橋剤によるタンパク複合体固定化の至適条件検討を行なっている。ターゲット分子が明らかになれば、続いてWNK4及びその基質との結合阻害薬探索を目指す。有望シーズ化合物については誘導体展開を行い、既に保有するWNKシグナル関連の各種ノックイン・ノックアウトマウスを使用してin vivoでの薬理学的活性の最適化を目標とする。
2: おおむね順調に進展している
我々のこれまでの研究成果から、WNK4活性を制御することができれば、生活習慣病のあらゆる症状に対するマルチターゲット治療が実現する可能性があり期待される。本研究では脂肪細胞におけるWNK4の基質を同定することを第一の目標として掲げた。まずは脂肪細胞に分化誘導できる3T3-L1培養細胞に対してWNK4ノックアウト(KO)株を作成し、内在性WNK4の影響を排除した条件下にWNK4のフラグメント別強制発現を行い、脂肪細胞分化制御因子であるC/EBPαやPPARγの発現に影響を与える特定のドメインを選定し、相互作用する分子探索の手がかりにすることを目指した。3T3-L1細胞に対して、GFPタグ付きCRISPR-Cas9・ガイドRNA発現ベクターを導入後、FACSソーティングによるGFP陽性細胞の選定とシングルセル化を行い、各クローンに対してウェスタンブロッティングによるWNK4発現確認ならびに塩基配列確認を経て、WNK4の完全KOが確認された3T3-L1クローンを6ライン得る事に成功した。続いてFLAGタグ付きWNK4フラグメントベクター(全長、N末端からキナーゼドメインまでのもの、C末端のみなど)を準備し、フラグメント別強制発現実験を行ったところ、全長ないしC末端フラグメントでPPARγの発現誘導が起こり、従来の想定通りWNK4脂肪細胞代謝活性はキナーゼ非依存的なメカニズムが想起され、現在検証作業を進めている。これと並行して、研究計画書通り質量分析によるWNK4相互作用分子の同定準備を進めている。FLAGタグ付き全長WNK4を3T3-L1細胞に強制発現し、架橋剤を用いてWNK4タンパクごと複合体として固定化した後、FLAGビーズによる免疫沈降を行い、WNK4自身の分子量以上のタンパク質収量効率が高い精製条件を検討中である。これらは研究計画通りに概ね順調に進められている。
研究計画書に記載した通り、まずは引き続き脂肪細胞においてWNK4の基質分子同定を目指す。これまでの検証から、脂質代謝制御因子へのWNK4活性制御が自身のキナーゼ活性とは独立したものであることが判明してきた。より精度の高いスクリーニングのために培養脂肪細胞である3T3-L1の内在性WNK4をノックアウトし、活性を持つフラグメントのみを強制発現した上で免疫沈降による相互作用タンパク群回収を想定しているが、前述した通りWNK4-KO細胞株の樹立には既に成功した。架橋剤によるタンパク複合体固定化の至適条件検討後には、実際に本学がすでに所有する質量分析器でLC-MS/MS解析を行い、WNK4と相互作用するタンパク質を網羅的に解析する。WNK4-KO細胞へ、同じタグ配列を持つ他のコントロール用タンパクを強制発現したものがネガティブコントロールとしても有効であり、精度の高い解析が可能になるものと考えている。基質候補が同定された場合にはWNK4側の結合ドメインを明らかにすべくさらなる断片化結合検証を進める予定である。本研究計画ではさらに臨床応用への足場として、我々がこれまでに構築した蛍光相関分光法(FCS)による結合阻害薬スクリーニングの経験を生かし、WNK4及びその基質との結合阻害薬探索を目指す。同定した基質ないしはWNK4の結合ドメインを蛍光TAMRAで標識し、FCSを用いたin vitro 結合検出系を確立する。続いて学内の約2万種類に及ぶ低分子化合物ライブラリーを用いて実際にスクリーニングを実施し、有望シーズ化合物の同定を目指す。さらに同定されたシーズの誘導体展開を行う事でより生体内活性が高く物性の良い化合物創出を目指す。併せて我々の保有するWNKシグナル周辺の各種ノックイン・ノックアウトマウスを使用してin vivoでの薬理学的活性を順次検証する予定である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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