多能性幹細胞を用いた心筋再生治療の開発が期待されている。私たちはカニクイザルiPS細胞由来心筋細胞をカニクイザル心筋梗塞モデルに同種移植したところ、心筋細胞移植後に一過性心室性不整脈が増加することを明らかとし、今後臨床応用に向けて解決する必要がある。これまでの前臨床試験で使用されてきた心筋細胞は、心室筋細胞、心房筋細胞といった作業心筋とペースメーカー細胞が混在した細胞集団である。移植後不整脈の原因として、心筋細胞に混在するペースメーカー細胞の関与が指摘されているが、詳細なメカニズムは不明である。本研究の第一の目的は(1)移植後不整脈発生のメカニズム解明である。まず、ヒトES細胞由来心筋細胞の電気生理理学的特性を確認するために、パッチクランプ法で活動電位を測定した。この結果、心筋細胞は約10%のペースメーカー様細胞と約90%の心室筋様細胞から構成されていることが判明した。in vitroにおいて、心筋細胞を12週間長期培養したが、ペースメーカー様細胞と心室筋様細胞の構成比率は変化しなかった。次にこの心筋細胞をラット心臓に移植したところ、ペースメーカー様細胞は移植後4週間まで生着したが、移植12週間後には有意に構成比率が低下した。移植12週間後の心筋グラフトは比較的成熟化した心室筋様細胞で構成されていた。これらの結果から、移植後不整脈は移植後に短期的に生着したペースメーカー細胞が原因であることが強く示唆された。 本研究のもう一つ目的は、(2)バイオペースメーカーの開発である。多能性幹細胞由来心筋細胞に含まれるペースメーカー細胞から、機械式ペースメーカーに代わるバイオペースメーカー開発を目指した。ペースメーカー細胞を心筋細胞から分離するために、ペースメーカーチャネルHCN4遺伝子下流に蛍光蛋白・抗生剤耐性遺伝子を導入し、純度の高いペースメーカー細胞の抽出に成功した。
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