研究課題
本研究では、持久性運動により制御され、機能がほとんど明らかにされていない骨格筋由来分泌因子「マイオカイン」を同定し、マイオカインの心血管疾患における生理病態学的意義を明らかにすることにより、運動療法による心血管系保護作用の機序解明のみならず心血管病の予防・治療戦略の開発につなげることを目的としている。現時点で以下のような実験の結果を得ている。1. 心筋虚血再灌流障害を改善するマウス持久性運動(トレッドミル運動)モデルを用いて、運動群と非運動群の骨格筋における発現遺伝子プロファイルをマイクロアレイ法を用いて比較検討した。運動により発現変化を示す遺伝子群の中でバイオインフォマティクス手法を用いて分泌因子(マイオカイン)であると予測できる分子を選別した。2. 運動により発現変化を示し機能があまり解析されていないマイオカインとしてTIMPファミリーメンバー、Ntnファミリーメンバー、TSPファミリーメンバー、CTRPファミリーメンバーなどの分子が候補としてあげられた。3. 候補であるマイオカインの全長cDNAを発現ベクターに組み込み、哺乳動物細胞に導入し培養上清への分泌を確認後に培養上清からリコンビナント蛋白を作成した。また、候補分子のアデノウイルスベクターも作成した。4. アデノウイルス発現系を用いた解析において血管内皮保護的に作用するマイオカインを見出したため、このマイオカインの遺伝子欠損マウスを作成し、このマウスでの遺伝子の欠損を確認中である。
2: おおむね順調に進展している
現時点では、心筋虚血再灌流障害を改善するマウス持久性運動モデルを用いて、運動により発現変化を示し機能があまり解析されていないマイオカインのスクリーニングを行った。その結果、いくつかのマイオカイン候補を選び出した。アデノウイルス発現系を用いた解析において血管内皮保護的に作用するマイオカインを発見し、遺伝子欠損マウスを作成済みである。従って、心血管疾患に対して作用を有するマイオカインを同定できている。これらの達成度は当初の研究計画の予定を考えると順調であると考えられる。
心血管系に作用するマイオカインの同定と心血管疾患におけるマイオカインの役割を明らかにするため、前年度までの研究成果を踏まえて、以下の解析を行う。1.前年度に、運動により発現変化を示すマイオカインのスクリーニングを行い、血管内皮に作用するマイオカインを発見し、遺伝子欠損マウスを作成した。今後は、まず、この分子に着目して生理的条件下での遺伝子欠損マウスの表現型を解析する。さらに、遺伝子欠損マウスに対して虚血モデルを作成し、心血管疾患における役割を解明する。2. 前年度に作成したマイオカインのリコンビナント蛋白とアデノウイルスベクターを用いて、さらなる機能解析を行う。
理由:マイオカインの候補による多彩な血管保護作用が見つかり、再現性の実験が必要となり、よりきめ細かな解析も必要となった。これらの実験及び解析が平成31年度にずれ込んだため次年度使用額が生じた。使用計画:抗体、PCR試薬、siRNA試薬を購入予定。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Circ Res.
巻: 123 ページ: 1326-1338
10.1161/CIRCRESAHA.118.313777.