研究実績の概要 |
本邦において、慢性腎臓病 (chronic kidney disease; CKD) の進行による末期腎不全にて透析療法を受けている患者数は33万人以上、透析療法にかかる医療費は年間1兆5,000億円を超え、腎疾患は医学的および医療経済的にも大きな問題を生じている。現在、腎不全に合併する腎性貧血に対して遺伝子組換えヒトエリスロポエチン (EPO) 製剤が使用されており、貧血の改善をはじめとして顕著な治療効果をあげている。しかし、貧血の生理的なコントロールは依然として困難であり、腎性貧血に対する治療の改善が必要とされている。本研究では、未確立であるヒトiPS細胞から成体腎臓内に存在するEPO産生細胞の分化誘導法を開発し、申請者らが既に確立している方法によってヒトiPS細胞から作製される胎児肝臓内のEPO産生細胞との性状の比較解析を行うことを目的とした。 R元年度には、EPO-GFPレポーターヒトiPS細胞株の複数の候補株を得た。また、ヒトiPS細胞から腎EPO産生細胞の分化誘導に関しては、独自の方法にてヒトiPS細胞から分化誘導されるネフロン前駆細胞と尿管芽細胞を組み合わせて形成される腎組織においてEPOの遺伝子発現を確認した。現在、本腎組織の作製法を改良し、間質前駆細胞の割合を増やし、より高効率に腎EPO産生細胞を分化誘導する条件を検討している。また、期間全体においては、EPO-GFPレポーターヒトiPS細胞株の樹立と腎EPO産生細胞の作製に加え、肝EPO産生細胞のシングルセルRNA sequencingによる遺伝子発現解析を行った。また、同細胞におけるEPO産生を促進する因子の同定とその機序解明を行った(Katagiri N. et al., 投稿準備中)。今後、EPO-GFPレポーターヒトiPS細胞株を用いて単離した腎および肝EPO産生細胞の比較解析を行う予定である。
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