研究課題
【概略】遺伝性徐脈治療における新たに明らかとなったKAChチャネルを介した疾患メカニズムを通じて、first-in-class薬剤開発に必要な分子機序を解明する研究をおこなった。【検討A】ゲノム解析と変異の同定:①多数症例に対して網羅的に変異を検出するための新規標的パネル解析法および情報解析法を確立した。②ゲノムコホート由来のゲノム多検体を解析し、遺伝性徐脈性疾患標的となるKCNJ3、KCNJ5ほか5つ関連遺伝子を加えた7遺伝子の実数把握を行った。③標的遺伝子パネル解析とともに、全エクソーム解析に対応したバーチャルパネル解析も実施した。④本疾患解析に特化した変異情報解析パイプラインを構築した。⑤直接的に重要な位置を占めるKCNJ3およびKCNJ5の2遺伝子については、3000人の不整脈ゲノムコホートから疾患原因となる7種類の候補変異を抽出に成功した。【検討B】同定変異の機能解析:⑥変異KACh チャネル機能とチャネル阻害剤の効果を確認するため、変異遺伝子を細胞に導入しカリウム電流抑制効果を検証した。⑦検討Aで同定した7種の変異に対して、変異コンストラクト作成し、2極電極法を用いて変異KAChチャネル電気生理機能変化を測定したところ、2つの変異が疾患関連性を有することを明らかにした。【検討C】新たな変異同定の試み:当初計画を発展・前倒しし、徐脈、洞結節機能低下、房室結節刺激伝導障害の他の原因変異の存在を明らかにするために、新たな遺伝性徐脈・心房細動症例コホートを構築し、ゲノム解析を実施し変異情報を入手た。2019年3月末現在、約100症例の遺伝性を疑う徐脈症例の変異情報解析を実施している。【成果報告】以上の成果は、日本循環器学会でシンポジウム3演題、日本心不全学会でシンポジウム3演題等、学会発表し、用途特許出願1件、原著論文はCirculation誌に採択された。
1: 当初の計画以上に進展している
①発端となった家系以外に他のポジションに変異を有する症例を、疾患コホートから複数抽出し得たこと、②その変異について機能解析を実施し、実際にチャネル機能変化を有する変異を2つにまで絞り込めたこと、この2点は独自に進める薬剤開発研究を推進する上で強力な開発推進の理由となった。その結果、③初年度の計画目標にはなかった前向きゲノムコホートの構築を前倒しして進めることができた。④既に症例を蓄積しはじめ、既に100症例近くの変異探索も開始できることとなった。また、⑤2019年2月に採択となった論文を端緒に、関連遺伝子の疾患原因変異の報告が他機関より出ることとなった。すなわち、国内のみならず世界的に広がりのある疾患である可能性が示唆された。さらに、⑥構築した機能解析実験系を用いて、同変異の機能解析を実施し、現時点では、既に本実験で用いる薬剤(阻害剤)が有効であるとの所見を得ることができつつある。以上①~⑥の6つの理由のうち、①~②は計画において期待された十分な成果となり、その結果③~⑥にあるように計画以上の進展を得ることができた。次年度(2019年度)の達成目標として掲げる「検出変異の導入による用量依存的なカリウム電流抑制効果の検証」および、「徐脈を呈するKCNJ3遺伝子改変ゼブラフィッシュへの迅速生体薬効評価」の検討のめどが立ち、さらに薬剤開発に必須の、疾患自然歴および分子機序(薬剤作用点)を検討する上で必須の複数の変異情報を入手することができた。
本研究は申請者らが得た遺伝性徐脈家系から変異を同定した新規疾患原因遺伝子アセチルコリン感受性カリウムチャネルより着想を得て、新たに検出した変異毎に分子機能阻害薬の効果を確認し、生体の心拍数増加作用を確認する研究である。阻害薬の開発にあたっては分子機能の変異と薬剤の作用点は必ず明らかにしなければならず、疾患ゲノム情報と、独自に確立した細胞・動物両実験系を用いて明らかにすることが重要な達成目標である。そのため、以下の検討1~3に従い、本遺伝子およびその病的変異に着目した薬剤が遺伝子変異に有効であるか一つ一つを検証し、生体機能変化に結びつくゲノム変異を同定するとともに、KAChチャネル阻害剤の薬効と将来の治療適応の可能性および病態情報を蓄積する、探索的研究をおこなう。新しい分子機序に着目することで、生体の心拍調節に新たな可能性を提示するとともに、実際に分子作用薬剤を用いてfirst-in-classの薬剤開発を目標に、その基礎的研究基盤を生み出す芽生え期の研究を実践的に推進する。【検討1】ゲノム情報解析および関連報告からの変異情報の抽出:新たに立ち上げた疾患ゲノムコホートより抽出された候補変異のゲノム情報解析による、疾患原因変異としての妥当性検証を行う。【検討2】検出変異の導入による用量依存的なカリウム電流抑制効果の検証:同定された変異のKACh チャネルの特性と薬剤の阻害剤の効果を確認するため、Xenopus Oocyteを用いて、電気生理学的機能解析を行う(右図)。薬剤作用の特異的メカニズムを解析する。【検討3】徐脈を呈するKCNJ3遺伝子改変ゼブラフィッシュへの迅速生体薬効評価:申請者らが確立した動物生体内のKACh チャネル活性評価系を用いて、ヒト疾患の原因となった変異KAChチャネルに対する本薬剤の効果をWhole Body Assay にて検証する。
(理由)受託解析予定であったものが、自施設での解析が可能となり、解析単価を節約することができた。年度計画で解析予定の検体数は順調に解析できており、研究計画に遅滞はない。(使用計画)2019年度に生じる試料検体について、研究成果の結果をより強固なものとするために、解析検体数を増やすことができるため、その解析費用にあてる予定である。研究計画の内容に変更はない。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 5件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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