血管とリンパ管は、同じ脈管系の組織でありながら、最終的な合流地点(頸部の静脈角)を除き、一切接続することは無く、血流とリンパ流が交わることは無い。血管の機能としては、主に肺から取り入れた酸素を赤血球を担体として末梢組織に運搬し、毛細血管で組織に受け渡す。一方、リンパ管は毛細血管が回収しきれなかった組織液を取り込み、頸部の静脈角から血液へと環流する。しかしながら、血管とリンパ管の構造・組織学的特徴を比べると、ほぼ見分けがつかないほど酷似しており、両者がお互いをどのように見分け、独立性を担保するのかは未解明である。本研究は、腎がん抑制遺伝子として知られてきたX遺伝子に関し、血管内皮細胞特異的欠損マウスを作成したところ、ホモ欠損マウスが胎生後期(胎生15.5日目)に致死であること、また、出生後のタモキシフェン誘導性血管内皮特異的X遺伝子欠損マウスでも見られ、血管内皮とリンパ管内皮が完全に分化して管腔を形成し、それぞれのidentityを確立した後でも、特定の分子機構の破綻によって容易に異常吻合しうるという予備的知見をもとに展開されている。これまでの成果としては、遺伝子改変マウス(Prox1とのダブルノックアウトマウス)や培養細胞の解析において、Xがリンパ管発生のマスター転写因子であるProx1の発現量をbHLH型転写因子の直接負に制御しており、血管内皮細胞においてこの制御が破綻すると、血管がリンパ管を接続すべき同志であると認識してしまうことを見出してしている。また、この転写因子とのダブルノックアウトマウスでタモキシフェン誘導性血管内皮特異的X遺伝子欠損マウスの表現型が打ち消されることも確認している。
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