研究課題/領域番号 |
18K19560
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
篁 俊成 金沢大学, 医学系, 教授 (00324111)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | セレノプロテインP / ヘパトカイン / 化合物スクリーニング / 遺伝子発現 / 2型糖尿病 |
研究実績の概要 |
申請者は、ヒト肝臓の遺伝子発現解析を利用して (Diabetologia 2007)、2型糖尿病で発現が上昇する肝臓由来分泌タンパクとしてセレノプロテインP (SeP)を同定し、SePが全身にインスリン抵抗性を誘導することで高血糖を発症させる“ヘパトカイン”であることを示した(Cell Metab 2010)。その後、SePの骨格筋受容体としてLRP1を同定し、SePが筋に作用することで運動の健康増進効果を減弱・消失させることを明らかにした (Nat Med 2017)。さらにSePの過剰が血管新生障害、膵インスリン合成障害、心筋梗塞増悪などの様々な全身病態を惹起することを報告した (Diabetologia 2014、Nat Commun 2017、Int J Mol Sci 2018等)。これらの論文で、マウスにおいて、肝臓でのSeP遺伝子発現を抑制すると、高血糖・インスリン抵抗性の軽減のみならず、血管新生増強、膵インスリン合成上昇、心筋梗塞改善など様々な糖尿病全身病態の改善効果が得られることを見出した。この結果は、SePの肝臓での過剰産生を抑制することが、血糖低下をこえた多面的作用を有する糖尿病薬の開発につながることを示唆する。そこで、SePの肝臓での産生を強力かつ特異的に抑制する低分子化合物を同定し、この化合物が糖尿病モデルマウスの病態を改善させるかを検証する。これまでに、既存の臨床で使用されている化合物のコンパウンドライブラリー(東京大学創薬支援センター)を用いた1次スクリーニング(既存薬1200種類)によって、肝細胞でSePの転写活性を強力にかつ特異的に抑制する低分子化合物を数十種類同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
臨床で使用されている1200種類の既存薬ライブラリー(東京大学創薬支援センター)を用いた、セレノプロテインPプロモーター下分泌型ルシフェラーゼスクリーニングによって、肝臓細胞でSePの転写活性を強力に抑制する低分子化合物を数十種類同定した。さらにこれらの中から毒性が低い3(X、Y、Z)化合物選んだ。このうちX化合物は構造展開の実現可能性が低く、副作用の影響も大きいため、マウス初代培養肝臓細胞やヒト肝臓細胞株を用いて、SePの遺伝子発現量やタンパク質量の変化、インスリンシグナルへの影響を精査し、また、マウス個体への投与も行い、血中SePタンパク質濃度や血糖値の変化を調べ、学術論文として投稿した(manuscript in revision)。構造展開の実現可能性が高い2(Y、Z)化合物については、類似既存薬および周辺化合物ライブラリー(大阪大学大学院薬学研究科附属創薬センター)を用いて2次スクリーニング(それぞれYについて70化合物、Zについて160化合物)を行った。結果、Yについては類似および周辺化合物に抑制効果がなかった。Zについては、周辺化合物においても一次スクリーニングと同程度の抑制効果があった。
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今後の研究の推進方策 |
Yについては類似および周辺化合物に抑制効果がなかったことから、Y特異的な細胞透過性を試験する。Zについては周辺化合物でも抑制効果がみられたため、それぞれの化合物について濃度依存性のSeP発現抑制効果と細胞毒性を精査する。また、YとZ(周辺化合物を含む)についてリアルタイムPCRを用いて直接SePのmRNAを測定することに加え、マウス初代培養肝臓細胞とヒト肝臓細胞セルラインを用いて、種の違いで効果に影響が出るか調べる。さらに、大阪大学大学院薬学研究科附属創薬センターの提案により、一次スクリーニングから新たに2化合物を選び出し、これらの周辺化合物(33化合物)も加えて、SePのmRNA発現と細胞毒性をヒトおよびマウス細胞で調査する。これらのうち、細胞毒性なく、濃度依存的に効果のあった化合物は、糖尿病モデルマウスへの投与を行い、血中SePタンパク質濃度や血糖値の変化を調べ、肝臓や筋肉のインスリン感受性も調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症への対応で、学会や研究会が延期になり、旅費を次年度に持ち越したため。
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