研究課題
世界死因4位の肺炎は、適切な治療を行ってもしばしば致死的となる。また慢性閉塞性肺疾患や肺線維症は慢性進行性の難治性疾患であり、これらの急性・慢性の肺の不可逆的・難治性の破壊病変に対しては、肺移植以外は根治的な治療はない。そのため、損傷肺の根本的な回復のためには、再生医学を駆使した新たなアプローチからの新規治療法の確立が望まれる。現在の再生医学は、induced pluripotent stem cells (iPS細胞)等の幹細胞を用いる手法が主流であるが、発生段階をなぞり各ステップで各種増殖因子を添加するなど煩雑であり臨床的応用性が難しい。また、幹細胞を使用するため腫瘍形成のリスクがある。近年、幹細胞を用いない新たな再生医療の手法として、終末分化した体細胞 (線維芽細胞など)に特異的遺伝子を過剰発現させることで、幹細胞を経ずにワンステップで目的の細胞を誘導する直接リプログラミングが注目を浴びている。直接リプログラミング法は、これまで、神経細胞、心筋細胞、肝細胞などですでに報告されているが、肺上皮細胞に関してはなかった。研究代表者らは、マウス線維芽細胞で、あらかじめリプログラミング候補因子として14因子選定し、各種検討の結果、特異的3ないし4因子の導入により、2型肺胞上皮細胞のマーカーであるSP-C遺伝子および蛋白が発現している肺上皮細胞の誘導が可能となった。前年度及び本年度は、本誘導細胞(肺上皮様細胞)を用いて、まずインフルエンザ感染マウスでの検討を行った。誘導細胞をインフルエンザ感染マウスに経気道投与を行うことで、対照群として因子未導入の線維芽細胞を投与した群に比べて、有意に生存率が上昇し、ウイルス量も減少した。投与した誘導細胞は、少なくとも一部は気道に生着しており、誘導細胞投与による保護的作用は誘導細胞生着による組織再生の機序があると考えられた。
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