研究課題/領域番号 |
18K19568
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
新谷 隆史 基礎生物学研究所, 統合神経生物学研究部門, 准教授 (10312208)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 脂肪組織 / ホスファターゼ / ノックアウトマウス |
研究実績の概要 |
継続した過栄養状態により脂肪組織は増大し、体重が増加する。脂肪組織が拡大する際には脂肪細胞の肥大化と細胞数の増加が起こっている。しかしながら、脂肪組織の脂肪蓄積量には限界があると考えられており、未解明の分子機構によって脂肪細胞の肥大化と細胞数の増加が停止する。 受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTPs)はタンパク質のチロシンリン酸化を介した情報伝達において重要な役割を果たしている。我々は最近になり、RPTPの一つであるPTPROの遺伝子欠損マウス(Ptpro-KO)を高脂肪高ショ糖食で飼育すると、著しく肥満することを見出した。さらに、これらの肥満マウスにおいては、野生型マウスに比べて脂肪組織が著しく増大することを見出した。PTPROは脂肪組織において高発現していることから、脂肪組織の脂肪蓄積量の限界を決めている分子機構に関与していると考えられる。そこで、本研究においては、Ptpro-KOマウスについて詳細な解析を行った。 まず、組織学的解析を行った。高脂肪高ショ糖食飼育下で野生型マウスとPtpro-KOマウス間に大きな違いを見出した。脂肪組織について見ると、高脂肪高ショ糖食飼育下ではPtpro-KOマウスの脂肪組織において肥大化した脂肪細胞が多数存在することが観察された。一方、肝臓については脂肪組織とは逆に、Ptpro-KOマウスにおいて脂肪の蓄積が大きく抑制されていることが観察された。 さらに、高脂肪高ショ糖食飼育下で、Ptpro-KOマウスの耐糖能とインスリンへの応答性が野生型マウスに比べて亢進していることが観察された。すなわち、高脂肪高ショ糖食飼育下のPtpro-KOマウスでは、異所性脂肪の蓄積が抑制されているため、インスリン抵抗性が生じにくくなっていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、Ptpro-KOマウスにおいて生じている変化について全体像を明らかにすることができた。その結果、Ptpro-KOマウスでは脂肪組織の脂肪蓄積量が著しく増大し、他臓器への異所性脂肪の蓄積が抑制されているため、インスリン抵抗性が生じにくくなっていることを明らかにできた。これらの成果から、本研究はおおむね順調に進んでいると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はPtpro-KOマウスにおいて生じている脂肪組織の性質の変化を明らかにするために、以下の解析を行う。 ・脂肪組織の糖代謝や脂質代謝に関与する分子やアディポサイトカインの発現量を、定量PCR、ウエスタンブロッティングやELISA法により測定する。 ・脂肪組織における炎症反応、及びそれによって誘導される組織の線維化が脂肪蓄積量の限界を決める分子機構に関与している可能性がある。これを明らかにするために、マクロファージ等の免疫細胞や線維芽細胞、細胞外マトリクスの分布を組織学的に解析するとともに、炎症性サイトカインの発現量や分泌量を測定する。 ・PTPROによってチロシンリン酸化レベルが制御されている分子を明らかにするために、PTPROの欠損によって脂肪組織でチロシンリン酸化レベルが変動しているタンパク質を、質量分析装置を用いて同定する。 ・PTPROが関わるシグナル経路を明らかにするために、脂肪細胞の増殖や分化、代謝調節に機能することが分かっているMAPKやAKT、NF-kB、JAK-STAT等のシグナル経路の変動について解析する。
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