研究課題
S100ファミリータンパク質は、炎症および免疫応答において重要な働きを担うだけでなく、様々な癌腫の発育に影響を与えていることが知られている。本研究では、癌細胞・間質細胞および免疫担当細胞が作り出す癌微小環境における炎症性メディエータータンパク質に関連した病態の解明を進め、新規治療法の開発を目的とした。2018年度は、特発性間質性肺炎(IPF)を代表とする肺の慢性炎症とS100および肺癌の関連性について臨床検体を用いて検討し、IPF合併肺癌では喫煙歴を有した扁平上皮癌が多く、S100蛋白の発現を高頻度で認めることを確認した。2019年度は炎症・肺線維化(線維芽細胞の活性化)・肺がん治療抵抗性を検討した。炎症性メディエーターであるS100A8/9蛋白の刺激により線維芽細胞の増殖・機能は活性化され、さらに抗S100A8/A9中和抗体投与により、これらの活性化は抑制されることを確認した。さらに活性型線維芽細胞と肺癌細胞の共培養モデルを用いて、活性型線維芽細胞が肺癌細胞に対してSTAT3経路の活性化を誘導し、肺がん細胞の薬剤耐性獲得に関与していることを明らかにした。最終年度では、癌微小環境と炎症に関与する他の治療標的を検討し、炎症性メディエーターの1つであるHMGB1蛋白がS100蛋白と同様、線維芽細胞の増殖・機能を活性化させるという知見を得た。さらに抗HMGB1中和抗体投与により、これらの活性が抑制されることを確認した。本研究で得られた知見から、癌微小環境における慢性炎症を標的とする新規治療法として、S100蛋白およびHMGB1蛋白を標的とする治療(抗炎症性メディエーター中和抗体カクテル療法)の有用性が示唆されたが、マウスモデルを用いた抗腫瘍効果の検証までは達成できなかった。しかしながら、研究期間全体を通じては上記の基礎データが得られたため、一定の研究成果を挙げたと考えている。