研究課題/領域番号 |
18K19587
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
丸山 征郎 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 特任教授 (20082282)
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研究分担者 |
山口 宗一 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (20325814)
原田 陽一郎 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 特任准教授 (80464147)
伊藤 隆史 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 講師 (20381171)
山本 美佳 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 特任研究員 (70791507)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | エクソソーム / 癌 / DIC / 血栓塞栓症 / 第Ⅶ因子 / 組織因子 / Blood skimming / Blood sludging |
研究実績の概要 |
悪性腫瘍は宿主を血栓傾向にシフトさせ、各種動静脈血栓さらには播種性血管内凝固症候群(DIC)を併発して予後に大きな影響を与える。さらにこの担癌患者の凝固亢進状態は単に血栓塞栓症/DICのみならず、原発巣の拡大浸潤、転移への関与も判明して、その機序の解明と対策確立は緊急の課題となっている。本研究ではこれらの点について癌細胞由来exosomeを解析し、以下の点を明らかにし得た。 1.癌細胞(ヒトの培養melanoma A375)は活発かつ恒常的にexosomeを放出する。 2.この癌由来exosomeはprocoagulantで、ヒトの血管を模した流血下キャピラリー内の流動下全血に凝固・凝集を惹起した。しかし、キャピラリー内を完全閉塞することはなく、キャピラリー内は“奇異な血流動態”を呈した。すなわち、キャピラリー周辺部は、大小の凝血塊の形成と崩壊を繰り返し、血流の早い部分と停滞した部分から成る不均一な血流が観察された。一方、中央部位は、血流遮断あるいは遅滞部位の内部に流れの速い”canal”が形成されて、蛇行化・閉塞・再開通・再閉塞を繰り返した。この奇異な血流は、“blood skimming、blood sludging”(血液上清、泥状化)に当てはまるものと考えられた。これは臨床では外傷やショック時、熱中症などで報告されている異常な血流動態である。 3.正常ヒト内皮細胞由来のexosome添加ではこのような異常流は観察されなかった。 4.各因子の抗体を用いた解析では、melanoma由来のexosome添加による異常な血流は第XII因子抗体、組織因子抗体で抑制されたので、一部はexosome表面の第XII因子活性、組織因子発現、ポリリン酸などによるものと推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①T-TAS(Total Thrombus Formation Analysis System) と、②Clot Waveform Analysis(CWA、凝固波形解析)という2つの新規解析法を導入したことである。 ①は我々が共同で開発した全血液のフロー下に血液凝固の動態を可視化、定量・定性するという方法である。すなわち、正常の全血液(血漿、赤血球、各種白血球、血小板存在下)を、微小血管(動脈、静脈)を模したキャピラリー(3μm径、内面をコラーゲン、組織因子で被覆)内を、それぞれ、動脈、静脈条件の流速で流し、顕微鏡可視下に血液凝固能を定量/可視化して解析する方法である。この全血試料にヒトメラノーマ細胞株A375、あるいは血管内皮細胞の培養上清より超遠心法で採取したexosomeを添加して、解析した。 ②は血漿の凝固過程ダイナミズムを波形解析して、凝固ステップを評価する方法である。具体的には血漿に、培養A375より分離したExoを添加して、凝固過程の波形を解析した。結果、A375由来のexosomeは外因系凝固時間PT測定には影響はないが、内因系凝固時間APTTを短縮させることが明らかになった。exosome添加後の凝固因子活性測定から、A375-exosomeは内因系の活性化によりAPTTが短縮すると考えられた。さらに、exosome添加後の1stおよび2nd derivative peak値の軽度低下は、フィブリノゲンが分解され、FDP、PICが増加したことに起因するものと思われ、exosomeは凝固系のみならず線溶系も活性化することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
“実臨床への反映、臨床への応用展開”を推進する。具体的には、現在、複数の他施設、企業(3大学2企業)と共同研究している「Onco-exosome 総合プロジェクト:エクソソーム測定法の確立」の研究と並行進捗させ、その成果とリンク、融合させて、以下のような項目に関して研究を推進する。 1.動物実験で再現する。すなわち、培養A375細胞より分離採取したexosomeをマウス、ラットに(静脈)投与して、その運命をフォローする(disappearance time)。 2.procoagulant、blood skimming/sludgingをin vivoで再現しうるか、果たしてこれがどの様な病態(具体的には血栓・塞栓症・DIC)を惹起し得るか否かを解析する。さらにはその機序を解析する。具体的には凝固内因系活性化の分子機序(第XII 因子、prekallikrein、ポリリン酸、組織因子、トロンボモジュリン、線溶系など)の関与である。 3.上記動物実験で得られた結果に基づいて、治療法を模索、検討する。具体的にはトロンボモジュリンを含めたどのような現行の薬剤が有効であるのか、新規にポリリン酸制御などが要求されるか否か、線溶系制御剤の併用は有効か否かなど、exosome惹起病態の制御法の解明・開発。 4.実臨床においても癌の転移との関連を明らかにする。さらにDAMPs、PAMPsの関与も検討する。特にDAMPsの中でもexosomeのoriginが悪性腫瘍であることを考慮すると、HMGB1やヒストンの関与の有無も重要であり、これらにも焦点を合わせて解析する。
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