これまでに胎児肝臓の段階に相当するiPSCミニ肝臓内で生じる異なる細胞種間の細胞間相互作用因子の解明に成功している。本研究では、ヒト立体臓器の形成過程で起る異種細胞間の細胞間相互作用の機能的解明と、再生医療に資するiPSCミニ肝臓の製造工程における機能的な品質評価指標の同定を目指し、相互作用因子の機能解析を実施する。そのため、ヒトiPSCミニ肝臓を対象にCRISPR/ CAS9法を用いて効率的な機能的スクリーニング系の構築を行った。効率よく遺伝子欠損を実施するため、ドキシサイクリン添加によりCas9の発現を誘導可能な遺伝子をヒトiPS細胞のAAVS1遺伝子座に相同組換えにより導入したiCrispr-iPS細胞を複数のiPSC株について樹立した。本年度は前年度までの未分化iPSC残存に関与すると考えられた遺伝子のノックアウトiPSCを用いて機能解析を実施した。その結果、内1遺伝子ノックアウトにより未分化残存のし易さが抑制されることが明らかとなった。複数の遺伝子を効率良くノックアウトすることで迅速な機能検証が可能となることが証明されたといえる。さらに、先天的な代謝性疾患である尿素サイクル異常症の原因でもある尿素サイクル関連遺伝子について複数のノックアウトiPSCを作製した。このiPSCについて肝細胞に分化誘導し機能検証を実施した。その結果、尿素サイクルに異常が観察され機能的にノックアウトされていることが証明された。さらに、これらの細胞を詳細に解析したところ、それぞれの酵素欠損によって起こる代謝異常が一律で無いことが観察された。すなわちそれぞれの酵素欠損によってバイパスされる代謝経路が異なる可能性が示唆された。従って、今後この複数の細胞を解析することで、尿素サイクルに異常症に対する薬剤療法や代謝改善のための検証が可能になると期待される。
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