研究課題/領域番号 |
18K19593
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
小林 孝彰 愛知医科大学, 医学部, 教授 (70314010)
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研究分担者 |
岩崎 研太 愛知医科大学, 医学部, 准教授 (10508881)
三輪 祐子 愛知医科大学, 医学部, 助教 (90572941)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 移植・再生医療 / 抗体関連型拒絶反応 / T細胞受容体 / ドナー特異的HLA抗体 / レパトア解析 / 個別化医療 |
研究実績の概要 |
ドナーHLAに対する抗体(DSA)が引き起こす慢性拒絶反応は長期成績を妨げる重大な因子となっている。 ドナーHLAの免疫応答に関わるT細胞受容体(TCR)、B細胞受容体(BCR)を特定し、de novo DSA産生の早期診断と有効な予防・治療法の開発の可能性を検討する。 NGSを用いたレパトア解析では、de novo DSA出現後に新たに検出される2つのTCRβレパトアを見出した(TRBV6-6、RTBV19)が、TCRα、BCR (IgM, IgG)については、特定の傾向を認めなかった。 別の症例で、TCRβに限定してレパトア解析を進めている。 培養内皮細胞を用いたMixed Lymphocyte Endothelial Reaction を確立し、反応するT細胞のシングルセルPCRを行い、再現性の検討を行なっている。これは、Direct Recognition Pathway によるT細胞レスポンスであるが、抗体産生に関わるとされるIndirect Recognition Pathwayの系を確立すべく、活性化Dendritic cell を利用してStimulator 細胞を貪食することを視覚的に、反応CD4陽性T細胞は増殖で確認した。現在、Dendritic Cellに対する peptide-pulse 後の T細胞反応性を解析するアッセイの確立を急いでいる。 臨床例では、PIRCHE理論の検証を私どもの症例で行なった結果、抗原提示は、DRB1だけでなく DRB3,4,5, DQA1/DQB1も考慮すべきであることが判明した(ユトレヒト大学との共同研究)。NSGマウスを用い、ヒト末梢血単核球を移入し、ヒト細胞の9週間の生着とGVHDを確認した。二系統のヒト細胞を用いて、感作後のHLA抗体産生を解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
短い研究期間にも関わらず、ほぼ順調に成果が得られており、計画は予定通り進行していると考える。 移植医療で長期成績の障壁となっている慢性抗体関連型拒絶反応を従来の免疫抑制療法とは異なる革新的な方法にて制御する試みであり、ドナーのミスマッチHLAに対するHLA抗体産生に関わる免疫応答の最初のステップは、T細胞による抗原認識である。そして、T細胞ヘルプによりB細胞が活性化して抗体産生細胞(形質細胞)に分化しHLA抗体が産生されて拒絶反応を引き起こす。 本研究は、当初、BCRの解析も視野に入れていたが、次世代シークセンスを用いたレパトア解析結果において、末梢血のBCR (IgG, IgM)には有意な変化が見られなかった。 末梢血を用いた早期診断を目標にするため、de novo HLA抗体産生で変化の見られたTCRベータに焦点を当てる方が、効率的に研究を進めることができ、革新的な予防、治療法の開発につながる可能性がある。2019年度に向けて、研究の方向性を明確にすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年の研究結果により、TCRとくにベータに着目して研究を進める方向性を明確にした。 令和元年には、Direct Recognition Pathway におけるT細胞のレスポンス、シングルセルPCRにて出現頻度の再現性を確認する。T細胞性拒絶反応を見出した症例とMLRによる反応後のTCRを比較する。さらに、Indirect Recognition Pathway検出系を確立する。末梢血単球由来樹状細胞(DC)を用い、ドナー細胞のphagocytosis, peptide-pulse後の CD4陽性T細胞反応性を、増殖、サイトカイン放出を測定し、至適条件を見出す。 de novo DSA 産生を認めた患者検体(移植前およびDSA産生時のPBMC)を用いて、 donor細胞のphagocytosis、PIRCHE アルゴリズムより推定されたlong peptideのendocytosis後の反応CD4陽性T細胞のTCR レパトア解析を行い、高頻度出現TCRを同定し、比較検討する。 ヒト化マウスでは、HLA健常人ペア(Responder, Stimulator)によるPBMC移入後感作を行い、ドナー特異的HLA抗体(DSA)産生を確認する。末梢血由来TCRレパトア解析を行い、PIRCHE アルゴリズムから推測されたpeptideに反応するCD4陽性T細胞TCRと同じレパトアを末梢血で検出できるかどうか、経時的に解析する。 並行して800例の腎移植例の検討より、DSA産生例のHLAの組み合わせを中心にHLA class IIで提示するドナーHLA由来ペプチド候補をPIRCHEアルゴリズムにより選定し、強く反応するTCRを同定する。 このTCRをもつT細胞のみを制御性T細胞に分化、培養し、選択的抑制系の妥当性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の開始が、通常よりも遅かったため、消費できていない研究費が残されている。しかし、現在、精力的に研究を進めており、残額とともに当初予定された次年度交付分を全て、2019年度末までには使用する見込みである。 次世代シークエンスを用いた解析には、多額の費用が必要であり、アッセイの確立には試行錯誤を繰り返し、至適条件を見出すため、時間が必要である。研究計画で記載したように、研究の方向性を絞ることができ、効率的に研究を推進する予定である。
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