研究課題/領域番号 |
18K19622
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
戸田 正博 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (20217508)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 自殺遺伝子 / iPS / 神経幹細胞 |
研究実績の概要 |
悪性グリオーマが難治性の脳腫瘍であり、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせた集学的治療を行っても、全生存期間の有意な延長は得られていない。治療困難な要因は、腫瘍幹細胞 (BTSC) が正常脳組織へびまん性に浸潤する性質を有することである。一方、神経幹細胞(NSC)は、脳内を遊走し脳腫瘍へ指向性をもって集積する性質を有することから、治療遺伝子を搭載する細胞としての役割が注目されている。そこで本研究では、治療困難な浸潤性BTSCの根絶を目指して iPSから分化誘導したNSCを用いた自殺遺伝子細胞治療の開発を行う。導入する自殺遺伝子は、cytosine deaminase(CD)とuracil phosphoribosyl transferase (UPRT)遺伝子の組み合わせを用いる。 CDは5-fluorocytosine(5-FC)を 5-fluorouracil(5-FU)に変換し、DNAおよびRNA合成を抑制して細胞死へ誘導する。さらにUPRTは5-FU を thymidylate synthase 阻害剤 である5-FUMP へ変換するため、CD 単独と比べ 100倍以上の bystander effect (周辺腫瘍細胞を細胞死へ誘導する)が得られる。 本年度は、自殺遺伝子を組み込んだiPS細胞の作成を引き続き行い、その治療用細胞としての品質を評価し、その後in vitro、ex vivoで、問題なく導入遺伝子が作動することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、ゲノム編集技術(CRISPR/Cas9システム)を利用して、iPS細胞のGAPDH領域にCD-UPRT遺伝子挿入し、NSCに分化誘導をさせた。しかし、細胞増殖やCD-UPRT遺伝子発現量の問題で懸念が生じたため、異なるハウスキーピング遺伝子領域に同様にCRISPR/Cas9システムで導入した。その結果、上記問題点を克服した治療用NSCを樹立することに成功し、予定通りBTSCへの治療効果をin vitro, ex vivo(organotypic brain slice culture)で評価することができた。治療効果は標準治療のtemozolomideより高く広範囲に及んだ。
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今後の研究の推進方策 |
予定通り、樹立した治療用NSCを、BTSCを用いたin vivo マウスモデルに移植し、その治療効果を評価する。具体的には、IVIS imaging system を利用したin vivo腫瘍イメージングおよび生存解析を行う。また治療用NSCのBTSCへの集積性を評価するため、経時的に脳組織を摘出し、組織学的解析を行う。同様に周囲正常脳への安全性も組織学的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
CRISPR/Cas9による自殺遺伝子の挿入遺伝子座の最適化の上で、ハウスキーピング遺伝子座で良好な結果を得たため、その他に計画していた挿入候補予定部位の検討を行う必要がなくなった。さらに、効果的に物品調達を行った結果であり、次年度の研究費と合わせて試薬・消耗品などの購入に充てる予定である。
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