研究実績の概要 |
悪性グリオーマは難治性の脳腫瘍であり、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせた集学的治療を行っても、全生存期間の有意な延長は得られていない。治療困難な要因は、腫瘍幹細胞 (BTSC) が正常脳組織へびまん性に浸潤する性質を有することである。一方、神経幹細胞(NSC)は、脳内を遊走し脳腫瘍へ指向性をもって集積する性質を有することから、治療遺伝子を搭載する細胞としての役割が注目されている。そこで本研究では、治療困難な浸潤性BTSCの根絶を目指して iPSから分化誘導したNSCを用いた自殺遺伝子細胞治療の開発を行った。ウイルスベクターでの遺伝子導入では染色体にランダムに挿入されるため、挿入部位の遺伝子変異や周辺遺伝子の活性化、位置効果による自殺遺伝子の不活性化が考えられるため、臨床応用に際し懸念された。そこで、ゲノム編集技術(CRISPR/Cas9システム)を利用して、iPS細胞のハウスキーピングやセーフハーバー領域にyCD-UPRT遺伝子を挿入し、NSCに分化誘導をさせることに成功した。さらに、複数のハウスキーピング及びセーフハーバー領域に挿入し誘導したNSCの細胞増殖やCD-UPRT遺伝子発現量を比較検討し、挿入部位を最適化し移植に優れた治療用NSCを樹立した。その後、BTSCへの治療効果を、in vitro, ex vivo(organotypic brain slice culture), in vivoで評価し、標準治療のtemozolomideに比して顕著な治療効果を得た。完全に消失し根治したマウスも再現性をもって得ることに成功した。本研究は、ゲノム編集技術と遺伝子細胞療法を組み合わせた革新的治療戦略と考える。
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