研究課題
本研究では、骨芽細胞から骨細胞として骨基質に埋め込まれる時空的タイミングがどのような因子・環境によって制御されるのか、その細胞マーカーは存在するのか、また、骨細胞へのスイッチングが決定している骨芽細胞では細胞極性や細胞骨格といった細胞内小器官にダイナミックな変化が生じるのかといった、基質内に埋め込まれる前に特定の骨芽細胞に「分化指令」がなされるか否か解明することを目的としている。平成30年度の研究において、申請者はpodoplaninに注目し、podoplaninを介した骨芽細胞から骨細胞へのスイッチング誘導の可能性、podoplaninとCD44との結合を介したEMR familyのリン酸化ならびにアクチンフィラメントの再構築を誘導することで、骨芽細胞から骨細胞への分化の可能性を検索した。その結果、骨リモデリング部(骨幹端)ではCD44陽性破骨細胞がpodoplanin陽性骨芽細胞に接触すること、また、その骨芽細胞は細胞膜にリン酸化ezrin陽性反応を示し、さらに、その骨芽細胞のアクチン線維は他の骨芽細胞よりも骨細胞に類似した細胞内分布を示すことが明らかとなった。一方、モデリング部位である皮質骨骨髄側では、podoplanin陽性骨芽細胞が骨表面に一定間隔で局在していたが、podoplanin陽性骨芽細胞とCD44陽性細胞との細胞間接触像は観察されなかったにも関わらず、podoplanin陽性骨芽細胞の細胞膜周囲にはリン酸化ezrinの局在が認められた。以上から、モデリング部位では、骨細胞への分化におけるpodoplaninシグナルはCD44陽性破骨細胞に依存しないのに対して、骨リモデリング部位では、podoplanin陽性骨芽細胞が、CD44陽性破骨細胞と接触することで、骨細胞への分化が増強される可能性が推察された。
2: おおむね順調に進展している
皮質骨のような緻密骨において、骨細胞はほぼ一定の間隔をあけて局在していることから、申請者は、骨芽細胞から骨細胞に分化する際に時空的な調節が存在するのではないかと考え、本研究を実施した。特に、骨芽細胞から骨細胞として骨基質に埋め込まれる時空的タイミングがどのような因子・環境によって制御されるのか、その細胞マーカーは存在するのかに注目した。その結果、申請者はpodoplaninが骨芽細胞の細胞膜および骨基質に埋め込まれたばかりの骨細胞の細胞膜、および、一部の骨芽細胞や骨細胞の細胞突起に一致して局在することを見出した。従って、podoplaninは、骨細胞に分化しつつある骨芽細胞、あるいは、分化したばかりの骨細胞に対するマーカーになりうることが推測された。興味深い現象として、骨リモデリング部位ではCD44陽性破骨細胞が細胞間接触を介してpodoplanin陽性骨芽細胞におけるezrinリン酸化を促進している可能性が示唆されたのに対して、モデリング部位ではCD44陽性細胞とpodoplanin陽性骨芽細胞との細胞間接触は認められなかったが、podoplanin陽性細胞はezrinリン酸化を示した。このことは、骨リモデリング部位では破骨細胞依存して、また、モデリング部位では破骨細胞に依存せず骨細胞分化が促進される可能性が示唆された。これまでに、骨芽細胞・骨細胞系が破骨細胞分化を調節する可能性が示されてきたが、破骨細胞が骨芽細胞から骨細胞への分化を調整する可能性はこれまでになく、新規性の高い研究成果であると考えられた。
今回の実験で、podoplanin陽性骨芽細胞が骨細胞に分化する可能性、また、その際にezrinのリン酸化によってアクチンフィラメントの細胞内構築がダイナミックに変化することを明らかにした。一方で、骨リモデリング部位では破骨細胞に依存して、また、モデリング部位では破骨細胞に依存せず骨細胞分化が促進される可能性が示された。以上の研究成果を踏まえると、申請者の新たな疑問として、CD44とpodoplaninの結合がpodoplanin陽性骨芽細胞の骨細胞への分化を促進する可能性について詳細に検討する必要があること、また、podoplanin陽性を示さない多数の骨芽細胞が存在することから、いったい、どのような因子や微細環境が骨芽細胞にpodoplaninを発現させるのか、また、多くの骨芽細胞にpodoplaninの過剰発現を誘導したときに、骨細胞への分化が亢進するのか明らかにすることは重要であると考えられる。従って、培養細胞系を用いて、CD44を培養骨芽細胞またはカルバリアに作用させることで、ezrinリン酸化が亢進するのか、あるいは、骨細胞分化が亢進するのかを確認する。さらに、podoplaninを骨芽細胞に過剰発現させて骨細胞の分化過程を検索したい。
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