研究課題/領域番号 |
18K19633
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉田 卓史 東北大学, 歯学研究科, 助教 (30455795)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 骨リモデリング / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
骨リモデリングは骨芽細胞・破骨細胞・骨細胞の3者が相互に連携することにより成し遂げられている。骨リモデリングの詳細なメカニズムの解明は骨に関する様々な病気の予防や治療法の開発につながる重要な研究テーマであるが、骨細胞は骨の中に埋没しているために細胞の単離も長年困難であったため詳細な研究が遅れていた。本研究では骨細胞を単離することなく、生体の中で骨細胞のみの機械刺激受容能を阻害する方法の開発を目的とする。そのためにオプトジェネティクス(光遺伝学)を利用する。オプトジェネティクスとは光応答性のタンパク質モジュール(光応答性分子スイッチ)を機能性タンパク質に接続することにより、光によりその機能をon/offすることができる技術である。骨細胞はalphaVbeta3インテグリンを介して骨小管に結合し、機械刺激を細胞内シグナルに変換している。この時、単量体型GTPアーゼ・Rap1はインテグリンの活性化に寄与している。このRap1の活性を制御しているタンパク質に光応答性分子スイッチを遺伝学的に結合したタンパク質を作成し、細胞に発現させることにより、光によりRap1の活性を操作することにより細胞接着、細胞骨格に任意の変化を与えられると考えた。本年度はこの光応答性タンパク質の開発を行った。光応答性タンパク質は2つの分子の組み合わせにより成り立っているが、細胞に発現させたところ当初予定していたようには光により効率的には作動しなかった。この理由として光応答性タンパク質の中に存在するリンカー配列の長さが不適切だったことが考えられる。また、近年より小さなタンパク質で光応答性を付与できるモジュールが報告された。今後はこれらの新しい知見を踏まえてより実用性の高い光応答性タンパク質を開発する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
開発していた光応答性タンパク質は当初想定していたほどの活性を示さなかった。これには次のような理由が考えられる。一つ目として光応答性タンパク質の構造最適化ができていない。光応答性タンパク質は複数のタンパク質の一部分(ドメイン)をつなぎ合わせて設計している。そのため本来の活性を示すためにはタンパク質のどの部分を使用するかや、変異を導入して活性を変化させないといけないがこの最適化に時間がかかる。また、タンパク質のドメインをつなぐリンカー部分もその長さや配列によりタンパク質の活性を阻害することが考えられるため最適化が必要となる。2つ目の理由として測定装置の不備が考えられる。機能の評価には生細胞をリアルタイムで長時間顕微鏡上で光刺激と観察を行う必要があるが、顕微鏡上の細胞を37℃で培養する必要がある。現在のシステムでは室温でしか培養できないため、タンパク質の活性が低くなっている可能性がある。以上の理由により当初の予定より遅れているが、最適化を行うことにより当初の目的を達成する。
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今後の研究の推進方策 |
光応答性タンパク質の構造最適化を実施する。具体的には光応答性スイッチドメインと機能ドメインをつなぐリンカー部分を、複数の配列、長さを変化させたものを作成しその機能を測定する。機能ドメインには変異を導入することにより活性の強度を調整することを行う。また、これまで使ったタンパク質以外からも有用な機能ドメインを選択して使用することにより機能性の高い光応答性タンパク質になるように最適化を図る。すでに光応答性ドメインに関してはより小さいドメインで機能を発現するものが報告されている。これらを導入することにより機能が改善されないか試行する。顕微鏡上の培養環境については顕微鏡上培養チャンバーの導入を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は当該年度でのLED光源の購入を計画していた。しかしながらいくつかの製品をデモを行い検討した結果満足のいく性能をもつものがなく、導入をあきらめた。これに代わり現在は顕微鏡上での生細胞の長時間観察において室温を使用しているが、細胞の活性が落ちることが懸念されている。このため顕微鏡上の温度チャンバーの導入を検討している。次年度はこちらの購入と、光応答性タンパク質の開発にかかわる酵素やDNAの購入を計画的に進める予定である。
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