研究課題/領域番号 |
18K19637
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
青木 和広 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (40272603)
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研究分担者 |
泉福 英信 国立感染症研究所, 細菌第一部, 室長 (20250186)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 口腔内細菌 / S. mutans / 静脈内投与 / 生菌 / 肝臓 / 慢性炎症 |
研究実績の概要 |
Streptococcus mutans(S. mutans)は、ヒトの口腔内に存在する、う蝕原因菌である。口腔内細菌が全身疾患を引き起こす可能性が示唆され、また、慢性炎症が癌抑制遺伝子の不活性化により、癌化する可能性も示されている。しかし、S. mutansがどの程度体内に定着し、臓器の炎症を引き起こすかどうかは明らかではない。本研究では、S. mutansをマウスの血管内に直接注射した後の血液、肝臓、腎臓における生菌数および炎症細胞浸潤の経時的変化を探索することにより、S. mutansが癌化の引き金になる組織の慢性炎症を惹起するか否かを明らかにすることを目的とした。 12週齢雄性BALB/cマウス14匹を尾静脈によりPBSに懸濁した菌体(S. mutans MT8148株)を注射するS. mutans群とPBSを注射するControl群とに分けた。注射30分、180分、1日、3日、7日、28日後に屠殺し、血液、肝臓、腎臓を採取し、血液及び臓器の生菌数は、寒天培地上のコロニー数を計測することにより評価した。またHE染色した組織標本を作成し、炎症性細胞浸潤を観察した(動物実験承認番号A2019-216A)。 血中にはS. mutans注射180分後まで、肝臓、腎臓は、注射28日後まで生菌が存在した。肝臓においては、類洞を主体に炎症細胞浸潤巣が認められた。静注1日目と3日目では、好中球が優位であったが、時間経過とともに慢性炎症を示すリンパ球が優位となる傾向が認められた。腎臓においては、いずれの群でも炎症細胞浸潤巣は確認できなかった。 S. mutansの静注により、短時間に血液からは生菌は排除されるが、S. mutansの生菌は4週間体内で生き延びていることが明らかとなった。また、肝臓では、S. mutansによる急性炎症から慢性炎症への移行する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
S.mutansの静脈内投与による慢性炎症が肝臓に引き起こされるという結論を述べるためには、まだ使用した動物の数1群2匹とすくなく、統計的に有意差検定が行えない状況である。 このため、2年で結論まで行き着くことができず、最終年度の1年延長を申請し認められたところである。また、分担研究者の所属機関である感染症研究所における発光S.mutans菌を静注する実験がようやく始まるところであり、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
1年延長した間に、マウスの引数を増やして最低1群3匹ずつで統計処理ができるように、実験を繰り返す。昨年度までは、HE染色による所見からだけで急性炎症、慢性炎症を判断してきたが、好中球やリンパ球の表面抗原に対する免疫染色も行い、HE所見を支持する結果を期待している。 また、S.mutans菌にlucipherase遺伝子を組み込んだ菌を用いて肝臓や腎臓におけるコロニー形成を経時的に可視化できるように、感染症研究所における実験を進めていく。医科歯科大学では、菌を打ち込んだ動物を用いた実験では、発光を捉えるIVIS装置が使えず、分担研究者の所属機関である感染症研究所において実験を進めている。この実験が進めば、臓器を砕いて生菌数を計測したデータとの整合性をとることができ、より血管内に口腔内細菌が入り込んだ場合の菌の定着場所を明らかにすることができると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
先に述べたように、研究の進捗がやや遅れているため、次年度に繰り越して使用することができるように最終年度の1年研究期間延長を申請し、承認をうけた。これが、次年度使用額が生じた理由である。 このため、使用計画として、統計処理ができるように動物を増やして実験を行い、また、感染症研究所における発光細菌を検出できるIVISを用いた実験も進めいていく。
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