研究課題
本研究では,MRSAのペニシリン耐性を担うPBP2’タンパク質(変異型)と 薬剤感受性の黄色ブドウ球菌のPBPタンパク質(ノーマル型)をヒスチジンタグの組換え体として発現させ,同タグ精製用のアフィニティーカラムにそれぞれ吸着させる.網羅的に人工合成した約40塩基のDNA配列をPBPカラムで吸着ろ過させた後,未反応DNA液をPBP2’カラムに吸着させることで,“PBP2’特異的なDNAアプタマー群”を得る.続いて,一価の陽イオン依存的に立方体構造へと変化するDNA配列群を検索後,PBP2’特異的なDNAアプタマーと連結し,「DNA素材のMRSA抗菌薬候補群」とする.そして,in vitroとin vivoの両実験系で効果測定と副反応の検証を実施し,DNA製抗菌薬の構築サイクルを確立させることを目的とする.具体的な初年度の結果を以下に記す.1. 約40塩基長のDNA鎖を網羅的に人工合成した.その際に,後の配列決定を考慮し,シークエンスタグをDNA鎖の両端に付加し,DNAアプタマーライブラリとした.2. 薬剤感受性の通常型の黄色ブドウ球菌を基に,ノーマルなPBPの組換えタンパク質を作製した.併せてMRSAを基に,薬剤耐性に変異したPBP2’の組換えタンパク質も作製し,それぞれを精製用のアフィニティ-カラムに吸着させた.3. DNAアプタマーライブラリをノーマルのPBPアフィニティ-カラムに通した後,未反応画分を耐性因子PBP2’のアフィニティ-カラムと反応させた.吸着したDNAは,シークエンスタグを利用して塩基配列決定した4. 上記の1~3を20回繰り返し,PBP2’へ特異結合するDNA群を配列データと共にプールした.5. 上記に併行し,in vitroとin vivoの両実験系で供試するため,新潟県下の病院ならびに細菌検査機関からMRSAの臨床分離株を収集した.
2: おおむね順調に進展している
国内外において,耐性菌が流布しつつも耐性菌の新規治療薬の開発が停止しているという問題に直面している.そこで,本研究では,DNAを素材とすることで ① 副反応の可能性が低く,② 配列の多様性と変更の簡便さに富み,③ 作用の新メカニズムと更新性が期待でき,④ 安価で安定な抗菌薬開発に挑戦することにした.研究初年度は,国内院内感染の約9割を占める薬剤耐性菌MRSAを対象に選び,且つMRSAの主要な耐性因子PBP2’に治療標的を絞る.DNA製の抗菌薬を作製し,in vitroとin vivoの両実験系で効果測定と副反応の検証を実施し,DNA製抗菌薬の構築サイクルを確立させる計画としている.研究実績の概要に記すように,臨床分離の薬剤耐性菌MRSA菌株を広く収集し,MRSAの耐性因子PBP2’を標的としたDNA断片ライブラリーの収集を推敲できている.また,結果観察のモデル確立として,p53機能阻害の系にて,一価陽イオン存在下で直鎖から立方体へ構造転換するDNA配列が,標的分子の構造障害を起こすことも確認した.
計画二年目は,国内院内感染の第2位であるペニシリン耐性肺炎球菌や第3位の多剤耐性緑膿菌を必須標的とし,多様な耐性菌の耐性因子について DNA製抗菌薬の構築サイクルを循環させ,耐性因子とペアで特異的なDNA配列のデータを数多く集積する.そして,ディープラーニング解析により仮想的に新たなDNA製抗菌薬の構築を試みる.具体的な方法手順を以下に記す.1. 初年度の手順に従い,肺炎球菌と緑膿菌の各種抗菌因子に結合するDNA配列をシークエンスし,追加データを新潟大学ビッグデータセンターにて蓄積する.2. ビッグデータセンターのGeForce並列計算システムで,薬剤耐性因子のアミノ酸配列とDNA製抗菌薬の配列相関をディープラーニングさせる.3. MRSAの耐性変遷は,申請者である寺尾が平成29年度までに遂行した科研費データから転送し,ディープラーニングで新規耐性菌の出現予測を試みる.そして,予測される耐性因子に結合するDNA配列をビッグデータ解析から推測する.併行して,DNA製抗菌薬候補群に対し,収集したMRSA株および組換えPBP2’タンパク質を作用させ,Biacore解析を行う.DNA製抗菌薬候補群の中から,MRSAおよび組換えPBP2’と結合性の高い分子を選出する.順次,DNA製抗菌薬候補のMRSAに対する最小発育阻止濃度(MIC)を二段階希釈法で測定する.最後に,MICに優れたDNA製抗菌薬候補をMRSA感染マウスに投与し,生存率を観察する.併せて血液を採取し,血中の残存MRSA数をコロニー培養法で計測する.同時に,抗DNA抗体価はELISA解析し,サイトカインの増減はLuminex装置で多検体同時解析する.血液中の投与DNA残留については,シークエンスタグを利用してPCR検出する.
交付申請時は,年度末開催の日本細菌学会総会での中間成果発表ならびに情報/資料収集を計画し,当該予算を見積もっていた.しかしながら,開催地である北海道地区に予測不可能な大規模地震が発生したため,日本細菌学会総会は,例年の年度末(2月もしくは3月)開催から,翌年度の2019年4月23~25日へと開催期間が変更となった.そのため,当初計画の年度内の旅費執行額が少なくなり,替わりに次年度使用額へと計画に変更が生じた.尚,本報告書を作成している2019年5月時点では,変更計画に従い,2019年4月23~25日開催の日本細菌学会総会での中間成果発表ならびに情報/資料収集を遂行し終えている.
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