研究課題
肺炎球菌性髄膜炎は,成人における致死率や後遺症の発症率が依然として高い,極めて予後が不良な中枢神経系感染症である.本疾患では,鼻咽腔や口腔の常在細菌が血流を介して髄腔内に到達し,脳実質に炎症が波及すると推察されているが,細菌が脳組織へ指向性を示す機構や血液脳関門を突破する機構は不明である.本疾患の臨床像に鑑みて,鼻咽腔に定着した肺炎球菌は血液脳関門を介さず,嗅上皮中の嗅神経の軸索もしくは周囲腔を介して直接的にくも膜下腔に到達すると推察した.本研究では,鼻粘膜に定着した肺炎球菌が嗅上皮-嗅神経を介して脳内の嗅球に到達する機構を培養細胞感染モデルおよびマウス感染モデルで検証した.正常ヒト鼻粘膜上皮細胞に肺炎球菌を感染させ,感染細胞における細胞間接着分子群の発現を解析した結果,アドへレンスジャンクション構成分子であるE-カドヘリンの発現量の低下を認めた.また,E-カドヘリン細胞外ドメインに対する組換えタンパク質を作製し,肺炎球菌臨床分離株の培養上清画分もしくは菌体表層画分と反応させた.その結果,複数の臨床分離株の菌体表層画分によるE-カドヘリンの分解が認められた.菌体表層画分によるE-カドヘリンの分解はプロテアーゼ阻害剤の添加により抑制された.以上の結果から,肺炎球菌は菌体表層に発現する分子のプロテアーゼ活性により上皮バリアの機能維持に重要なE-カドヘリンを分解し,鼻粘膜上皮バリアを破綻させることが示唆された.
2: おおむね順調に進展している
肺炎球菌の菌体表層プロテアーゼによる細胞間接着分子E-カドヘリンの分解を証明した.また,マウス鼻腔に定着する肺炎球菌株を収集し,これらの株を使用した肺炎球菌の鼻腔定着マウスモデルの構築が進捗しているため,おおむね順調である.
鼻粘膜上皮-嗅上皮のin vitro 共培養細胞モデルおよび肺炎球菌の鼻腔定着マウスモデルを構築し,鼻粘膜上皮-嗅上皮バリアの機能障害,ならびに肺炎球菌もしくは菌体成分の鼻腔から脳内への移行性を,細胞層のインピーダンス測定法および in vivo イメージングシステムで解析する.また,肺炎球菌性髄膜炎の病態形成への関与が認められた細菌分子および宿主分子について,感染防御抗原もしくは創薬ターゲットとしての可能性を検討する.
平成30年度に肺炎球菌の鼻腔定着マウスモデルを構築し,菌体および菌体成分の脳内移行に関する解析を行う予定であったが,マウス鼻腔に定着する肺炎球菌臨床分離株の収集と選出に時間を要したため,マウス感染実験は次年度に行うように研究計画を修正した.このため,次年度使用額が生じた.
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