現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルツハイマー病モデルマウスとして家族性アミロイド前駆体タンパク質(APP)変異であるSweden変異とBeyreuther変異をもつAPPをノックインしたマウス(APP-KIマウス)を用いた。野生型マウスの全脳よりMACS法を用いて9時ならびに21時に単離したミクログリアよりRNAを抽出し、CAGE法による網羅的遺伝子解析を行った。その結果、野生型マウスから単離したミクログリアでは免疫・炎症反応に関連した遺伝子発現(NOS2, Saa3, S100a8, S100a9, C5ar1, Il1alpha, Il1rn, Nfkb1)は非常に低かった。一方、APP-KIマウスから単離したミクログリアではこれらの免疫・炎症反応に関連した遺伝子発現は野生型と比較して有意に大きな値を示した。これらの免疫・炎症反応に関連した遺伝子はミクログリア特異的遺伝子ではないがミクログリアにかなり選択的に発現する。さらに定量的PCR解析を行った結果、野生型マウスでは時計遺伝子であるBMAL1, PER1, PER2ならびにREV-ERBalphaのmRNA発現は9時(BMAL1)、1時(PER1,PER2)ならびに17時(REV-ERBalpha)をピークとした日内変動が認められた。また、炎症性メディエーターであるTNF-alpha, IL-1beta, NOS2ならびにIL-6のmRNA発現は5時をピークとした日内変動が認められた。一方、APP-KIマウスのミクログリアでは時計遺伝子(BMAL1, PER1, PER2ならびにREV-ERBalpha)ならびに炎症性メディエーター(TNF-alpha, IL-1beta, NOS2ならびにIL-6)のmRNA発現は野生型マウスと比較して位相のズレならびに発現量の増大が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果より以下のことが明らかとなった。(1)APP-KIマウスのミクログリアでは野生マウスと比較して活動期である21時に炎症性メディエーター発現の有意なに増大が認められた。(2)野生型とAPP-KIマウスとでは時計遺伝子(BMAL1, PER1, PER2ならびにREV-ERBalpha)ならびに炎症性メディエーター(TNF-alpha, IL-1beta, NOS2ならびにIL-6)のmRNA発現の日内変動に位相のズレが認められた。これらの結果より炎症性メディエーターの発現増大は時計遺伝子発現の位相のズレが関与している可能性が示唆された。そこで今後、時計遺伝子(BMAL1ならびにREV-ERBalpha)が転写因子NF-kappaBならびに内因性インヒビターIkappaBalphaの発現をどのように制御しているのかを培養ミクログリアを用いて解析する。さらにアルツハイマー病におけるミクログリアの時計遺伝子の変容の病理的意義についても検討する。
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