研究課題/領域番号 |
18K19650
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研究機関 | 安田女子大学 |
研究代表者 |
中西 博 安田女子大学, 薬学部, 教授 (20155774)
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研究分担者 |
倪 軍軍 九州大学, 歯学研究院, 助教 (00783953)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | ミクログリア / アルツハイマー病 / ジンジバリス菌 / 時計遺伝子 / 網羅的遺伝子解析 |
研究実績の概要 |
最近、歯周病菌(Porphyromonas gingivalis、ジンジバリス菌)ならびにその菌体成分がアルツハイマー病患者脳内に検出され、ジンジバリス菌の脳内感染がアルツハイマー病の増悪因子であることが示唆されている。また、疫学研究によってもアルツハイマー病患者の認知機能障害の程度と歯周病の重症度には正の相関があることが示されている。さらに最近、脳内感染したジンジバリス菌に対しミクログリアは突起伸展反応を示し、この突起伸展反応は非活動期に最大となり、活動期に最小となることが明らかになった。このことから、脳内に感染したジンジバリス菌に対するミクログリアの一連の活性化反応は非活動期に最大となり、活動期には活性化反応を規制するゲート機構の存在が想定される。 そこで本研究はこの想定されるミクログリアの活性化反応を規制するゲート機構の実態を明らかにすることを目的とする。まず、①活動期におけるジンジバリス菌に対するミクログリアの活性化反応を規制するゲート機構の存在を明らかにするため、網羅的遺伝子解析(CAGE法)を行い、ミクログリア特異的遺伝子群の日内変動を解析する。次に、②日内変動を示すジンジバリス菌に対するミクログリアの活性化反応(突起伸展、遊走、貪食、炎症惹起)に関与する遺伝子群のうち、日内変動を示すミクログリア特異的遺伝子を抽出することで想定されるゲート機構の物質的基盤を解析する。また、日内変動を示すミクログリア活性化反応に関与する遺伝子群のうち9時(非活動期)に増大する遺伝子を抽出し、ゲート機構の物質的基盤を明らかにする。また、このゲート機構が時計遺伝子の制御下にある可能性を検討する。さらに、③ アルツハイマー病ではミクログリア分子時計が変容し、想定されるミクログリアの活性化を規制するゲート機構が破綻することで過剰な脳炎症が惹起される可能性を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、大脳皮質ミクログリアにおいて時計遺伝子(BMAL1ならびにREV-ERBalpha)が転写因子NF-kappaB、転写因子RORalphaならびにNF-kappaBの内因性インヒビターIkappaBalphaの発現をどのように制御しているのかを解析した。APP-KIマウスの大脳皮質から単離したミクログリアにおけるIkappaBalphaならびにRORalphaのmRNA発現量のZT14での値ならびに暗期における平均値は野生型マウスと比較して有意に低い値を示した。一方、IkappaBalphaならびにRORalphaのmRNA発現量の明期における平均値はグループ間で有意な差はなかった。次に、REV-ERBalphaアゴニストであるSR9009の脳炎症反応ならびに学習行動に対する影響を解析した結果、APP-KIマウスの大脳皮質におけるREV-ERBalphaのmRNA発現量の有意な増大が認められた。またSR9009の投与により、APP-KIマウスの海馬におけるIba1、NOS2ならびに成熟型IL-1betaのタンパク質発現量は有意に増大した。さらに新奇物体認識テストに対するSR9009の影響を解析したところ、SR9009の投与によりAPP-KIマウスでは馴染物体と新奇物体の区別ができなることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果より次のことが明らかとなった。(1)APP-KIマウスのミクログリアでは野生マウスと比較して活動期である21時に炎症性メディエーター発現が有意に増大した。(2)野生型とAPP-KIマウスとでは時計遺伝子(BMAL1, PER1, PER2ならびにREV-ERBalpha)ならびに炎症性メディエーター(TNF-alpha, IL-1beta, NOS2ならびにIL-6)のmRNA発現の日内変動に位相のズレが認められた。(3)APP-KIマウスのミクログリアでは野生マウスと比較して特に暗期におけるIkappaBalphaならびにRORalphaのmRNA発現量が有意に低い。(4)SR9009の投与により、APP-KIマウスの海馬におけるIba1、NOS2ならびに成熟型IL-1betaのタンパク質発現量は有意に増大した。(3)SR9009の投与により、APP-KIマウスのAPP-KIマウスの認知機能が有意に低下することが明らかとなった。そこで今後、REV-ERBalphaアゴニストであるSR9009がAPP-KIマウスにおいてのみ脳炎症を惹起し、認知機能を低下させるメカニズムについて解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の試薬の国内在庫がなかったため購入を見合わせたため残額が生じた。次年度の消耗品費として使用する予定である。
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