研究課題/領域番号 |
18K19652
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
重村 憲徳 九州大学, 歯学研究院, 教授 (40336079)
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研究分担者 |
吉田 竜介 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (60380705)
實松 敬介 九州大学, 歯学研究院, 講師 (70567502)
高井 信吾 九州大学, 歯学研究院, 助教 (30760475)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 味覚 |
研究実績の概要 |
近年、「味覚受容体」は、口腔のみならず視床下部や消化管、膵臓β細胞など様々な栄養関連臓器で発現することから、味覚の異常は、口腔のみならず、“全身の臓器でも味覚異常”が生じて、栄養・摂食・嚥下障害や生活習慣病(高血圧・糖尿病・高脂血症)の発症原因となる可能性が示唆されている。 味細胞は少なくとも5種類に分類され、それぞれ異なる5基本味に対する特異的な味覚受容体を発現して味物質を受容している。また、この味細胞の寿命は約10日と短いにも関わらず、味覚情報(認知)は恒常的に維持されている。これらのことから、味細胞と味神経とは、生まれてから死ぬまでの全ライフコースを通して絶えず配線/断線を繰り返しながら味質選択的に配線されることで、外・内環境に適切な「摂食行動適応」が達成される可能性が示唆される。その一方で、加齢や不規則な生活習慣により 「ミス配線」も起こりやすくなることも考えられ、この慢性化が上記の疾病発症、つまり、「口腔および全身の味覚感受性の低 下」から「体内栄養素の代謝異常」、そして「生活習慣病など個体機能の低下」へと繋がる可能性が推定された。 そこで、本研究では、この“未知の動的な配線制御機構”を明らかにするために、我々の予備実験から見出された“味蕾”および“味神経”に「共通」に発現する16種類の細胞表面蛋白(Cadherin: Cdh)ファミリーに着目し、これらが5基本味(=5栄養素)(甘味=糖、塩味=Na+、うま味=アミノ酸、酸味=H+、苦味=毒物)に特異的な配線制御分子として機能している可能性について遺伝子改変マウス/分子生物/神経生理/行動生理学的解析により追求している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備実験のGeneChip解析において味細胞と味神経に有意な発現が認められた16種類のCadherin(Cdh) に着目し、RT-PCRおよびin situ hybridizationを行った。この結果、複数のcdhがマウス味蕾に発現していることが分かった。その中である一つのPcdh20は、甘味/うま味受容体構成分子T1r3と特異的に共発現しており、甘味もしくはうま味細胞の機能発現に関与している可能性が示唆された。さらに、味蕾の発生過程における発現様式を解析した結果、Pcdh20はT1r3発現に先行して発現していることがわかった。これらのことから、Pcdh20は、味蕾の発生過程および完成後の味細胞のターンオーバー過程に甘味/うま味細胞と甘味/うま味神経線維との特異的配線に関与し、味細胞の分化誘導にも関与している可能性が示唆された。以上の本研究結果は、Sci Rep誌に掲載された。現在、昨年度から進めていたCRISPR/Cas9技術を用いたPcdh20 遺伝子欠損(KO)マウスの作出が終了し、これまでに味蕾におけるPcdh20 mRNAの発現が消失していること、そして、味蕾の形態(数、大きさ、他の味細胞マーカーの発現)には顕著な変化がないことを明らかにしている。また、このPcdh20-KOマウスをもちいて、味覚行動解析および味覚神経応答解析を進めている。以上のことから概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、CRISPR/Cas9技術をもちいて作出が終了したPcdh20-KOマウスを用いて、その味蕾および神経節の形態解析、特に味蕾内における味細胞と神経線維のコンタクトについて、免疫組織化学的(必要であれば免疫電顕法も加える)に解析する。 そして、Pcdh20-KO マウスにおける味神経応答解析(鼓索・舌咽神経)および飲水行動解析(短・長時間)を完遂予定である。具体的には、味細胞-味神経間のマッチングに変化が起これば、5 基本味に対する神経応答特性が変化し、味溶液に対する飲水行動にも影響する可能性が高い。そこで、味神経応答および飲水行動をKO と野生型(WT)間で比較解析し、摂食行動適応へのPcdh20の関与を示す。また、舌前・後方をそれぞれ支配する鼓索・舌咽神経の両神経応答を比較することで、味覚感受性の舌部位差(例えば、舌前方は甘味優位 vs 後方は苦味優位)への栄養素特異的なPcdh20 の関与についても検討を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬等使用の効率化により予定額よりも安価に研究を実施できたため次年度使用額が生じた。次年度にはこの差額分を別の試薬の導入に使用し、より多角的かつ重層に研究を推進する。
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