研究課題/領域番号 |
18K19658
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
山下 潤朗 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 教授 (70775337)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | parathyroid hormone / Glucose transporter / osteoblasts / osteocytes / energy metabolism |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,副甲状腺ホルモン(PTH)によって骨細胞で活性化される神経ペプチドY(NPY)の生理的機能を明らかにすることである.In vitro とin vivoでの実験でNPYの機能の一端を解明する.現在まで,in vitro で骨芽細胞と骨細胞において,PTHで刺激した場合のNPYの重要な生理機能の一部を解明できた.骨芽細胞はPTHで刺激してもNPYとグルコーストランスポータ1(Glut1)の発現に大きな変化は認められなかったが,3次元培養している骨細胞ではPTHで刺激するとNPY, Glut1, Glut4の発現が有意に低下したので,PTHは骨細胞のエネルギー代謝に関与していることがわかった.実際,PTHを単回投与後に屠殺したマウスの骨では,骨芽細胞レベルでGlut1の発現に大きな変化は認められなかったが,骨細胞レベルでは有意に減少していた.次に,CRISPR-Cas9 Technologyを使ってNPYをノックアウトすることによってGlut1, Glut4の発現が変化するかを調べた.まず,MC3T3E1細胞でNPYをノックアウトすると,Glut1の発現が顕著に増加することがわかった,マウス頭蓋骨より採取した骨芽細胞でもNPYをノックアウトするとGlut1, Glut4共に顕著に有意な発現の増加が認められた.さらに,NPYをノックアウトした骨芽細胞を3次元培養したNPYノックアウト骨細胞でも,Glut1の発現は顕著に有意に増加した.これらのことは,骨芽細胞,骨細胞においてはNPYがGlutの発現を抑制していることを示している.PTHで骨細胞を刺激するとNPYが活性化されGlut1の発現が抑制され,エネルギー代謝は停滞することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験計画どおりに研究を進行させている.まず ex vivo で骨芽細胞と骨細胞を培養し,副甲状腺ホルモンで刺激したときのNeuropeptide Yの発現,グルコーストランスポータ(Glut1, Glut4)の発現を調べた.骨細胞の分離培養は数週間を要するので一朝一夕には結果がでない.しかし,RNA levelでの遺伝子発現はしっかりと調べることができた.ウエスタンを使って蛋白レベルでの確認もおこなったが,これはうまく行かなかった.次にCRISPR-Cas9 technologyでNPYのノックアウト骨芽細胞と骨細胞を作って同様の実験をおこなった.NPYをノックアウトすると初代細胞の多くは細胞死を起こすので,骨細胞の3次元培養にたどり着くのはかなり大変な仕事だった.次にNPYをFloxで挟むSSODNの導入を試みたが,うまく行かなかった.それでガイドRNAのデザインを変えてトライしているところである.以上のことから,現在までの進捗状況は,計画予定どおりではないものの,おおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
研究課題が採択されてから現在まで,CRISPR-Cas9を用いてnpy-KO primary osteoblastsの構築を試み,成功にこぎつけた.次は,このnpy-KO骨芽細胞を3D培養で骨細胞に分化させ, PTH刺激により活性化するエネルギー代謝関連遺伝子の発現を明らかにする計画である.さらにin vivoの実験としてloxP配列でnpy遺伝子を挟んだFlox-npyマウスを作成させたい.現在,MC3T3-E1細胞を用いてFlox-npyの導入を試みている.最終的にはFlox-npyマウスとDmp1-creマウスを掛け合わせることにより, 骨細胞に依存的なnpy-KOマウスを作製する.骨細胞依存的なnpy-KOマウスの骨形成能およびエネルギー代謝能や関連遺伝子の解析を行う.具体的には,Phenotypeを明らかとし,血中グルコースやコレステロール濃度などの血液検査, 加えてmicroCT解析, HE染色観察, 骨や腎臓での各発現遺伝子解析を行う.これにより,骨細胞でのNPYの制御が,骨粗鬆症や糖尿病の治癒に貢献できることを調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
マウス受精卵にflox配列をもつ single-stranded oligodeoxynucleotides (ssODNs)を導入して,floxedマウスの作製にとりかかったが,ssODNの導入がうまく行かず,現在,異なるデザインのssODNを試みている.このため未使用額が生じた.ssODNは合成費用がかかるので,未使用額は次年度に繰り越して使用する予定である.
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