薬剤耐性菌が世界的に増加する一方、新たな抗菌薬の開発は減少傾向にあり、国際的に大きな課題となっている。2016年4月、厚生労働省により薬剤耐性(AMR)アクションプランが決定された。その成果指標の一つに「緑膿菌のカルバペネム耐性率を2020年までに10%以下(2014年には20%)にする」ことが挙げられている。 申請者は「手洗いの除菌を行い、手洗いを介した耐性緑膿菌伝播のサイクルを断ち切ることで、緑膿菌のカルバペネム耐性率を低下させることができる」と考え、これを検証すると同時に、その実現のための具体的な対策を提示することが本研究の目的である。 北海道大学病院の特定の病棟では、過去にカルバペネム系、キノロン系、アミノグリコシド系の3剤に耐性を示す多剤耐性緑膿菌(MDRP)のアウトブレイクを経験したが、2007年7月以降、該当病棟の手洗いを第4級アンモニウム塩をベースとする除菌薬を用いて除菌を行うことで、アウトブレイクを鎮静化させた実績がある。 2005-2017年に該当病棟の入院患者から検出されたカルバペネム耐性緑膿菌の保存菌株304株を対象として、PCR-based ORF Typing (POT)法とMulti-locus Sequence Typing (MLST)法を用いた遺伝子タイピングを行ったところ、手洗いの除菌を開始した2007年を境に(アウトブレイクの原因となった)MDRP株は激減し、2012年後半以降は検出されなくなった。 これにより、手洗いの除菌を行うことが、アウトブレイクを鎮静化させる一助になったことが検証された。
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