小児に対する低レベルの鉛曝露により、知能低下や多動・注意欠如などの健康影響が懸念されている。食品安全委員会によれば「有害影響を及ぼさない血中鉛濃度」として胎児や小児で4μg/dLが提案されているが(経口摂取量に変換できないため経口摂取量の基準値は未設定)、国内に少数ながらこの安全値を超えるケースが観察される。このため小児の鉛曝露に関するリスク解析が喫緊の課題であるものの、鉛の曝露評価には血液が必須と考えられ小児採血が必要となるが、小児での採血はハードルが高いことから疫学調査はあまり進んでいない。このため小児の鉛曝露レベルを評価するための低侵襲性の採血モニタリング法の開発が必要である。そこで本研究では侵襲性が低いと期待される耳朶などからのキャピラリー採血による鉛モニタリング法の確立を目指した。初年度に調査で用いる様々な資材による鉛のコンタミネーションのレベルを確認し、分析値に影響を与えない程度に鉛汚染を制御できることを確認し、実際の採血での検証を進めた。その上で成人を対象として上腕橈側皮静脈の採血で得られた全血試料と、耳朶からの採血で得られた全血試料の鉛分析を実施し、全血中の鉛濃度の関連性の検討を進めた。本年度は小児採血を計画したが、新型コロナ感染症の中で疫学調査は難しいと判断され、血液中の元素分析を誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)により実施していたことから、鉛以外の重金属についてもデータベースを構築し、さらに解析を進めた。その結果、鉛以外に、水銀、カドミウム、マンガン、セレンといった元素類について、静脈血採血による全血と、キャピラリー採血による血液中の元素濃度の間には高い相関が得られることが確認された。ヘマトクリット値を考慮しても同様な結果であった。以上から、キャピラリー採血は重金属類に関する非侵襲性的なモニタリング法として有用であることが示された。
|