研究課題/領域番号 |
18K19663
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大森 純子 東北大学, 医学系研究科, 教授 (50295391)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 社会的包摂 / ポジティブ・デビアンス / 東日本大震災 / 被災地 / 地域社会 / モデル開発 |
研究実績の概要 |
近年,社会構造が変化する中で,人と人とのつながりが薄れることによる社会的排除のリスクが増大しており,地域社会が抱える人間のQOLに関わる課題となっている。社会的排除のリスクの連鎖と累積が顕著となった東日本大震災後の被災地では,この地域社会の課題に対する試みや模索が進行している。 本研究は,被災地の住民による草の根レベルの試みに着目して,ポジティブ・デビアンス(PD)として特定し,地域社会の包容力が形成されるプロセスや促進要素を抽出し,さらに波及させることで,PDアプローチの技法を用いた社会的包摂の実践モデルの開発を目的とする。 平成30年度は,研究実施計画と役割分担について検討し,本研究の基盤となる,社会的包摂(社会的排除)の概念,PDアプローチの手法および好事例を特定するための課題の選定について理解を深めるべく,文献検索および検討を行い,研究会議を3度開催して議論を行った。 社会的包摂は多様な領域で扱われている非常に広い概念であり,本研究が射程とする社会的包摂の定義づけを明確にする必要があった。文献検討を進める中で,包摂の多面性,人と人の関係性に着目することの重要性について共有を図ることができた。 PDアプローチについては,文献による情報収集に加え,セミナーおよびワークショップ等への参加により最新の知見を収集し,研究班内で理解を深めた。 地域社会における包容力を現実社会においてどのようにとらえることができるか,言い換えれば,社会的包摂すなわち地域社会の包容力のアウトカムとして何を設定することができるのかについて検討を行う必要があった。発災から7年を経過した現在の被災地の状況や課題に関して,資料や情報を収集し精査していく中で,復興公営住宅への入居等,居住地の移動に伴ってコミュニティがシャッフルされることによる孤立化に焦点を当て,好事例の選定を進めることで方向性を定めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における「社会的包摂」の定義づけおよびポジティブ・デビアンスとしての好事例の選定方法の探索において,当初の想定よりも時間を要してはいるものの,本研究を進めるうえで根幹となる重要な作業であり,おおむね順調といえる。現在までの作業を通して研究の基盤をしっかりと固めたことで,今後の円滑な進捗が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,関係者,実践者へのヒアリングを通して好事例に関する情報収集を進め,地元である宮城県,仙台市,宮城県市長会,宮城県町村会,宮城県看護協会,宮城県保健師長会,宮城県保健師連絡協議会等から研究協力を得ながらフィールドの候補を決定し,協働自治体と共同実践研究事業の協定書を取り交わす。同時に研究プロトコールを作成し,倫理審査委員会に提出し,承認を得る。 予備調査を踏まえて,本調査を実施する。PDアプローチの5ステップに則り,段階的に進める。 以下のStep1~5を通じて,地域社会の包容力の形成プロセスと有用な促進要素を確認し,モデル化する。①Step1:Define 被災地におけるコミュニティの再生に関する資料・データを収集し,ポジティブ・デビアントを見出す ②Step2:Determine ポジティブ・デビアントとそこにかかわるPD実践者(人・グループ)を特定する(好事例の特定) ③Step3:Discover 質的手法(参加観察とインタビュー)によりPDのプロセスと促進させる要素を抽出する ④Step4:Design 抽出された促進要素についてPD実践者と住民がICTツール等を用いて学び合う機会を設け,周囲に波及する、⑤Step5:Monitor 住民間の学び合いの経験と行動変容や地域社会の変容をICTツール等を用いてモニタリングする,社会的包摂の実践モデルを開発。データの整理・集計・分析と結果の検討は各ステップで実施する。また,フィールドの状況に応じて研究の進め方の確認・改善を行う。 本調査実施後は,適宜,学術学会発表・論文執筆等により研究成果を発信していく。 各フェーズにおいては必要に応じ,国内外の研究者からコンサルテーションを受けることを予定している。
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