研究課題/領域番号 |
18K19673
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
及川 伸二 三重大学, 医学系研究科, 准教授 (10277006)
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研究分担者 |
山嶋 哲盛 金沢大学, 医学系, 協力研究員 (60135077)
小林 果 三重大学, 医学系研究科, 講師 (70542091)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 過酸化脂質 / 4-ヒドロキシノネナール / 細胞死 / 酸化ストレス |
研究実績の概要 |
わが国の認知症患者は現在500万人近くまで増加しており、アルツハイマー病はその約2/3を占める。アルツハイマー病は、記憶、思考、行動に異常をきたす不可逆的な進行性の疾患で、最終的には日常生活を行う能力さえも失われる。アルツハイマー病の脳内では、特徴的なアミロイド斑と神経原線維変化が起きており、脳内の神経細胞死も認められる。これらの特徴は、症状が出現する10年以上も前に始まっていることがよく知られている。一方、アルツハイマー病の発症機構についてはその詳細は未だ明らかになっていないが、酸化ストレスや脂質およびその代謝産物がアルツハイマー病の発症に関与していることが報告されている。特に、食用油に含まれている過酸化脂質が神経を始めとする細胞に細胞死を引き起こすことが注目されている。従って、本研究では、過酸化脂質のひとつである4-ヒドロキシノネナール(HNE)による神経を始めとする細胞死誘導とその機構について解明を行う。本研究では、Ca2+を細胞内に流入させ細胞死をひき起こすGPR40に着目した。GPR40は、脳の海馬・視床下部や膵臓のβ細胞に高発現し、植物油に含まれるトランス脂肪酸などの中・長鎖遊離脂肪酸と結合することで活性が上昇することが報告されている。しかし、マウスやラットなどのげっ歯類ではヒトに比べてGPR40の脳内発現量が著しく少ないことから、本研究では、GPR40の脳内発現量がヒトと同程度発現しているニホンザルを用いて解析を行った。本年度の実績概要は、ヒドロキシノネナール投与後、解析を行ったすべてのサルにおいて脳、肝臓、膵臓の細胞に神経細胞死を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トランス脂肪酸含有飼料で飼育したニホンザルに4-ヒドロキシノネナール(HNE)5mgを毎週1回、半年間にわたり静脈内注射を行った。投与期間終了後、海馬や視床下部、膵臓、肝臓などの組織を摘出した。それぞれの組織について、免疫組織学的方法で光学顕微鏡を用い組織切片を観察した結果、5匹すべてのサルで海馬ニューロン、肝臓細胞および膵臓β細胞において小嚢胞変性と細胞死が認められた。神経細胞の電子顕微鏡による観察では、変性が認められた細胞においてリソソームの膜透過性の異常による破裂、細胞質の崩壊と核濃縮、細胞膜の破壊、ミトコンドリアの障害、オートファゴソームなどの現象が観察された。これらの結果から、HNE投与後のサルにおいてリソソームの顕著な減少による細胞死が誘導されたことが示唆された。従って、飼料に含まれるトランス脂肪酸がGPR40と結合することにより、過剰のCa2+が細胞内に流入しカルパインを活性化させ、HNEにより酸化された分子シャペロンであると同時にリソソーム膜の安定化作用も持つHsp70.1が切断され、これによりリソソーム膜の安定性が崩れ、カテプシンが漏出し神経細胞死が起きている可能性が高いと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、神経細胞で、GPR40を介した、カルパインの活性化、Hsp70.1の切断、リソソームの破裂、カテプシンの漏出による神経細胞死の誘導機構の検討をさらに進める。また、この誘導機構が、肝臓細胞や膵臓細胞においても同様に起きているのか明らかにしていく。さらに、海馬や肝臓、膵臓などの酸化状態を、酸化ストレスマーカーとして定量性のある8-oxodGやMDAを用いて測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスなどにより国内外の各種試薬類や器具などの製造や運輸の状況が不安定でそれらの入手が予定通りに進まなかったことおよび学会の中止、共同研究者との打ち合わせの中止、また各種抗体や標準品の購入を次年度に変更したことなどにより、予算が次年度に繰り越した。 これらは試薬類や旅費で今後も本研究に必要なため、未使用金は消耗品費などとして順次使用していく。
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