研究課題/領域番号 |
18K19674
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
丸山 史人 京都大学, 医学研究科, 准教授 (30423122)
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研究分担者 |
西内 由紀子 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (00333526)
藤吉 奏 京都大学, 人間・環境学研究科, 特定助教 (20805808)
大屋 賢司 国立医薬品食品衛生研究所, 衛生微生物部, 室長 (50402219) [辞退]
岩本 朋忠 神戸市環境保健研究所, 感染症部, 部長 (70416402)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 抗酸菌 / 細菌群集 / 次世代シーケンサー |
研究実績の概要 |
浴室は高温・多湿であるため微生物が増殖しやすい。そのため浴室の細菌群集の理解は、衛生管理と疾患の予防対策を行うにも重要である。そこで本研究はしばしば病原微生物が見出されるシャワーヘッドバイオフィルム(以下、バイオフィルム)とシャワーヘッド水(以下、水)の関係を明らかにすべく細菌群集構造を解析した。計18つの建物(一軒家、ホテル、アパート)からバイオフィルムおよび水を収集した。試料からDNAを抽出し 16S rRNA遺伝子V1-V9領域を対象にPCRした。MinIONを用いて配列を取得し、bwa-memを使ってデータベースにマッピングした。マッピング後のデータはRを用いて解析した。その結果、すべての水試料に共通していたのは水圏由来のMethylobacterium属をはじめとする10属、また土壌由来のAncylobacter属、Alsobacter属をはじめとした38属の細菌がバイオフィルムよりも水に有意に高い割合で存在していた(P <=7.0e-04)。一方バイオフィルム試料ではMethylobacterium属とSphingomonas属のみ全ての試料に共通して存在していた。これらのことは、水とバイオフィルムはそれぞれ異なる細菌群集を構築していることを示唆している。水とバイオフィルムの両者に共通して見出された細菌属が占める割合は、バイオフィルムが水の2倍程度と有意に高かった(P=0.0008 < 0.05)ことから、水の菌が表面に付着し増殖したのであり、バイオフィルムの菌が水に出てきているのではないことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の概要のように確実に成果をあげている。また、このような環境で重要なMycobacterium avium complex (MAC)の代表的なメンバーであるM. avium subsp. hominissuis (MAH) の集団レベルでの比較ゲノム解析と遺伝的集団構造解析を行い、以下のような、日本に分布するMAH系統のゲノムの特徴を見出すことに成功した。種が持つ遺伝子レパートリーの数を調べると、MAHは結核菌の3倍もの遺伝子レパートリーを持つことが判明した。また個体のゲノムを1つ解読するたびに新しく発見される遺伝子の数が結核菌よりMAHの方が多いことから、MAHは種外から積極的に新しい遺伝子を取り込んでいる種であると推定された。世界に分布するMAH集団内における日本のヒト分離株の進化的な位置付けを明確にするため、コアゲノムの一塩基多型(SNP)情報に基づいてMAHの系統を定義した。この結果、(1) MAHが比較的長い染色体断片を種内で交換しあう細菌種であること、(2) 世界に大きく分けて5系統が分布していること、(3) 日本のヒト分離株が東アジアに分布する2系統 (MahEastAsia1, MahEastAsia2) のどちらかに属すること、(4) 東アジアに分布する2系統間で組換えがよく起きていることなどが明らかになった。このようにして、本研究から得られる細菌群集構造データを病原細菌のデータとの関連を調べるための基盤は構築できている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の抗酸菌については、系統を簡易な単一遺伝子にて分類可能な手法の開発を進める。現在、以下のような予備的知見を共同研究で得て、また、方法論の確立を進めている。本細菌種はゲノム上の大部分を交換するにもかかわらず、一部、交換が起きていない領域が存在していることが判明した。また、解析数を増加させたところ、系統は5ではなく6系統存在することが判明した。また、ゲノム交換が起きていない領域の遺伝子2つを用いることで、この6系統を分類可能であることを見出した。また、簡易な携帯型DNAシーケンサーのデータを用いることで、オンサイトでのゲノム解析実施可能な系を確立することができた。また、高度なゲノム解析がインターネットや計算機の制限で実施困難な状況でも簡易な分子型別をインシリコで実施可能なプロトコルを確立することができた。本年度は、これらの知見の確定と妥当性の評価を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担研究者の藤吉、西内の執行予定が2019年度に変わったため。 本年度、前年度の分担研究課題を同時に実施する。
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